「ボクシング、WBA世界フライ級タイトルマッチ」(31日、広島サンプラザホール)
日本ボクシング界初となる大みそかの世界戦に向けて王者・坂田健史(28)=協栄=が29日、故郷の広島に入り、V5を宣言した。減量も順調で、体調は万全。強化に努めてきた左アッパーを武器に、序盤からアクセル全開のアグレッシブなボクシングで挑戦者のデンカオセーン・シンワンチャー(32)=タイ=をマットに沈める決意を示した。
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決戦の地に降り立った瞬間、坂田の表情が一気に引き締まった。誰も寄せ付けないオーラが全身から漂う。これまで帰省時には何度も笑顔で踏みしめた広島駅。しかし、この日は違う。過去4度の防衛戦ですら経験したことがないほど気持ちの高ぶる帰郷となった。
ボクシング界初の大みそか世界戦。また、広島戦での世界戦は78年5月のWBAライトフライ級タイトル戦で具志堅用高-リオス(パナマ)戦以来、実に30年ぶりだ。
だが坂田にとって戦うことが目的ではない。自身に厳命したのはV5を達成すること。それが目的というより、義務と考えている。「いい感じで気合が入ってる。絶対勝つ」と短い言葉の中に闘志をにじませた。
前回までは回を重ねるごとに調子を上げ、相手の特徴やしぐさを冷静に分析し、対処していくのが坂田の勝ちパターンだった。だが今回は、1ラウンドのゴングが鳴ると同時に飛ばしていく戦法を頭に描いている。
左アッパーにも大きな自信がある。デンカオセーン戦決定後、徹底的に左を鍛えた。ダウンを奪われながらドロー決着だった昨年11月の対戦では、左の有効打が少なかった。王座死守のためには左の習得が不可欠と考え、左アッパーを当てづらいサウスポー選手とのスパーリングを繰り返すなど、重点強化に努めてきた。
その成果は十分。左腕の力こぶは右腕のおよそ2倍になった。「自信がある」と坂田。金平会長も「いい武器になった」と絶賛するほどの力強い左アッパーを手にした。
広島を盛り上げたい思いも強い。昨今の世界的な不況の影響は、生まれ育った安芸郡府中町にも及んだ。同地に本社を置くマツダも減産に伴い契約社員を削減。自身は今、ボクシングで生計を立てられるようになったが、それまでは練習と並行して配管工事や荷造りのアルバイトで何とか生活費を得た経験もある。
「最後に明るい話題を提供したい」
自身の防衛で、少しでも故郷の県民を勇気づけられれば、明るい年越しになってもらえれば、と心底から願っている。
30日は調印式と計量。そして31日の決戦を迎える。「自分のボクシングをして勝つだけ」。V5へ向けて体も気持ちも既にパーフェクトの坂田が語気鋭く言い切った。