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広さ約1.5畳だが、横になれる「長期滞在者仕様」の部屋=埼玉県蕨市中央1丁目のサイバーアットカフェ
インターネットカフェを「住居」として住民登録し、派遣などで働いている人がいる。「ここを足場に次のステップにつなげてくれれば」と、カフェの経営者。ただ、ネットカフェ難民らをターゲットにした「貧困ビジネス」に直結しかねず、「大切なのは生活を安定させる手だてを考えることだ」と、指摘する声もある。
東京都港区の六本木ヒルズ。クリスマスキャンペーンが終わって26日から始まった撤去作業の現場に、埼玉県蕨市のネットカフェを住所にする男性(39)がいた。
2年ほど前から、東京・池袋の人材派遣会社に登録し、建設資材の搬出入や解体工事など、肉体労働中心の日雇い仕事で暮らしている。
カフェで住民登録できることはネットで知った。6月に川崎市の2DKのアパートから移り、秋に住民登録。運転免許証を更新し、国民健康保険も申請した。
大阪府内で保育士になり、結婚した。収入への不満から30歳で横浜市の不動産会社に転職したが、仕事が忙しくなったこともあり離婚。会社は37歳の時に倒産した。その後、正社員の口はなく、スーツは今、月4500円のレンタルボックスの中だ。
「新居」は池袋に近く、関東一円の仕事場への交通費も安くすむ。店側は住民登録の条件として、当面居場所を変えない意思表示の意味を込めて30日分の代金5万7600円の前払いを求めているが、敷金や礼金、保証人が不要なのが魅力だった。月3千円で郵便物の受け取りなどの代行サービスもある。「ネットカフェを『住居』にしていいのか」と自問したが、「これも選択肢の一つ」と考えた。
月収は16万〜20万円。20万円ほどの預金はあるが、将来への不安がつきまとう。働いても働いても「普通の暮らし」は見えてこない。
年明けからの仕事は決まっていないという。
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住民登録できるのは、蕨市の「CYBER@CAFE(サイバーアットカフェ)」だ。経営者の佐藤明広さん(46)によると、これまでに10人が登録し、現在は5人の「住民」がいる。
板で仕切っただけの1畳半の部屋に、パソコンと大きないすがある。かぎはない。長期滞在者向けに、いすを外して横になれる部屋もある。
1年前、JR蕨駅前に開店し、9月に増設。隣り合う二つのビルに58室ある。年明けにもう10室増やす計画だ。
登録第1号は3月だった。ある男性が蕨市に住民登録を申請し、市は受理した後で住所がネットカフェと知り、あわてて店と協議。本人の定住意思や店側の退去報告などを条件に、住民登録を認めた。「想定外のことでもあり、当惑と苦渋の決断だった」(市民生活部)という。
総務省自治行政局は「市はぎりぎりの判断だっただろう。通常ではないが、短期賃貸マンションなどの延長線上の行為と考える」とし、「安定した居住場所の確保という支援策を前提に考えるべきだ」と話す。
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法テラス埼玉で貧困問題などに取り組む谷口太規弁護士は「生活保護も就職も、住民票がないと門前払いされるのが現状。最善とは言えないが、一つの救済策ではないか。ただ、客がカフェに固定化しないよう、行政側もカフェ側も支えていくことが必要だ」と指摘する。生活困窮者らに低家賃で住宅を提供するなどの活動を行うNPO法人「ほっとポット」の藤田孝典代表理事は「ネットカフェは暮らす場所ではない。大切なのは生活を安定させる手だてを考えること。もっと行政による支援策を求めたい」と話している。(伊藤典俊)