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社説:視点・未曽有08 厚労省の「罪」

 ◇猛省して国民の側に立て

 今年ほど厚生労働省に対して国民の批判が相次いだ年はなかった。年金記録の改ざんなど、国民を裏切る問題が噴出し信頼は地に落ち、社会保障制度への信頼も根底から揺らいでいる。未曽有の混乱と不信を招いた厚労省の罪は重い。

 具体的な事実を検証してみたい。まずは5000万件にも上る、いわゆる「宙に浮いた年金記録」問題だ。政府・与党は3月末までに照合作業を終えると公約したが、無理だった。膨大な記録の照合が簡単にできるはずもなく、国民を失望させた。

 4月から始まった「後期高齢者医療制度」は75歳以上の高齢者から「うば捨て山にするのか」との猛反発が全国に広がった。批判の大合唱を目の当たりにした与党は、高齢者の保険料の大幅減免によってかわそうとしたが、高齢者らは小手先の収拾策だと見抜いてしまった。

 後期医療制度については、法律が成立して以降の2年間、厚労省は制度の説明責任を果たしてきたとはいえない。都道府県単位で全市町村が加入する寄り合い所帯の広域連合に運営を任せ、周知を怠った。この結果、大混乱が生じた。舛添要一厚労相が突然、同制度見直しの私案を打ち出したことも、スタンドプレーだとして批判を浴び、混乱に一層拍車をかけた。

 9月、今度は社会保険庁職員による厚生年金記録の改ざんが明らかになった。11月末には舛添厚労相が設置した調査委員会が、社保庁職員が組織的に改ざんに関与していた実態を公表した。保険料の算定基礎となる標準報酬月額の改ざんが「社保庁の仕事の仕方として定着してきた」と指摘したのだ。これは間違いなく犯罪行為だ。

 年金改ざんが組織的に行われていた事実は衝撃的だった。国家公務員が組織的に国民をだましていたのだから、許せないことだ。民間企業なら倒産するだろう。厚労省は倒産してはいないが、国民からはレッドカードを突きつけられたに等しい。

 厚労省の官僚は政治家の顔色をみて仕事をしてきた。厚労族議員への根回しで政治を動かしてきた。国会での法案成立に精力を注ぎ、法律を作った後の周知には熱心ではなかった。その弊害が医療制度改革で一気に噴き出したと指摘したい。

 厚労省は政治家ではなく、国民を見て仕事をすべきなのだ。不祥事を猛省し原点に戻る時である。国民と行政をつなぐものは信頼だ。年金や医療、介護など、暮らしの基盤が崩れ社会の底が抜けつつある今、厚労省には国民の側に立つ「暮らし省」として出直すしか道はない。(論説委員・稲葉康生)

毎日新聞 2008年12月30日 10時51分

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