ことしの政治は混迷の一語に尽きます。最大の原因は自民党に政権を担う能力が著しく衰えたからです。金融危機が万年与党の弊害を一挙に浮き彫りに。
麻生太郎船長は「消費税増税」「たばこ税増税」「地方交付税増額」と針路を示しました。しかし内容がぶれるので、乗組員である族議員や官僚は聞く耳を持たず、積み荷の分捕りに血眼でした。
九月には「百年に一度」の大暴風雨が襲来したのに、雇用や景気対策は年明けまで先送り。船長の統率力に失望して、脱出しようと船べりに足をかける議員も。
◆「首相」があまりに軽い
来年の自民党の運動方針案が自認する通り、建造五十年余ということもあって、沈没寸前です。
当選第一で世襲を多く起用したため、すでに議員の四割を占め、その極みが三代続いての元首相直系の首相の登場です。
前の二人は一年ほどで政権を投げ出し、麻生首相は就任三カ月で低支持率に苦しんでいます。
世襲の多くは経験不足でたくましさが足りず、党全体も人材不足に陥っています。
政策面での機能低下を象徴するのが「定額給付金」です。
政治の最大の仕事は税金の再分配のはず。票欲しさに「公」に使うべき財政を個人に返すのは、政治の劣化そのものです。
最大の原因は、自民党が結党時に掲げた反共と経済成長という役割を終えたのに、次の課題を設定できなかったからです。
一九八〇年代から新自由主義に切り替え、「小さな政府」を目指しましたが、一方で族議員や官僚による利益誘導政治を残したため、中途半端に終わり、財政赤字だけが増え続けています。
◆万年与党の弊害が噴出
九四年に導入された小選挙区制で派閥は存在意義を失い、人材や政策を競い合う機能が衰えたのに体質転換ができませんでした。
このため、小泉政権が「自民党をぶっ壊す」と大なたを。
しかし、急激な規制緩和は、弱者切り捨ての“副作用”がひどく、社会保障や雇用、地方を疲弊させ、後の政権の足かせです。
また、国民人気を頼りにした強引な「郵政解散」は与党三分の二の大勝利。党勢立て直しの「救世主」といわれましたが、その後の人気だけに頼る総裁選びは、かえって党の衰弱を進めたのです。
麻生政権になって、長期政権のさまざまな弊害が噴出した格好です。そこへ世界的な金融危機ですから、解散の決断もできずに迷走したのは当然でしょう。
長い間、本格的政権交代なしのツケが一挙に、ともいえます。
「政権交代は民主主義の必須条件」。民主主義という仕組みは、人間は過ちを犯すことを大前提にしています。政権党が間違ったり、行き詰まったら、他の政党に権力を移行させる。
その機能が働かない最大の理由は、野党の力量不足でした。離合集散を繰り返し、政権は無理と国民が判断したためです。
ところが、昨年夏の参院選から風向きが大きく変わりました。
民主党が第一党に躍進し野党が過半数を占めたため、国政調査権が効力を発揮し長年隠されていた行政の不正や怠慢、政官癒着が次々と暴かれました。
まさに政権交代の“予行演習”です。国民は国会の勢力比、権力のありようをちょっと変えただけなのに、風通しのよさを実感しています。
いま、政治の役割は、資本主義の暴走を食い止め、国民の最低限の生活を守り、将来の安心を保証することにあります。
自民党は、万年与党の疲れが出てこのままでは下野の可能性大、果敢な自己改革ができるか。
民主党は野党としての存在感を増していますが、政権党として国民の信頼感を獲得できるか。
他の野党は小粒でぴりりの政策でキャスチングボートを握れるか。それぞれ問われています。
◆刺激的な選択の年に
すべての政党が「生活第一」「生活重視」を旗印に掲げています。やがて政権公約(マニフェスト)が出てくれば、その本気度や具体的政策と優先順位に、かなりの違いが出るはずです。
未曾有の暴風雨は数年続くでしょう。これを乗り切る力量のある船長が率いるのはどの政党か。
国民にとっては、いよいよ半世紀に一度の刺激的な選択の機会がやってきます。
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