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【主張】回顧2008 「変」の先に灯りともせ 安全網の再構築が問われる
財団法人日本漢字能力検定協会が公募した今年の漢字に「変」が選ばれた。変には「かわる」「うつりかわる」「ふつうではない」といった意味がある。
今年は誰もが、変化の多い1年と感じたのではないか。
特に激変したのは経済である。今年前半と後半ではまったく様相が異なる。原油高騰や小麦などの食糧価格の急騰でインフレが懸念された今夏がうそのようである。原油は7月の最高値から約4分の1にまで下がった。
≪米欧金融危機が急波及≫
米国発の金融危機は9月の米大手証券リーマン・ブラザーズの破綻(はたん)以後、実体経済を急激に悪化させた。輸出不振と円高、資金繰りの悪化は企業を直撃し、今年3月期決算で2兆円超の営業利益を上げたトヨタでさえ、来年3月期は営業赤字が確実な見通しだ。こうした企業の経営環境の悪化はすぐに生産、投資の抑制につながり、雇用情勢に響いた。
雇用の悪化は、雇用保険や年金の未加入問題など非正規社員をめぐる安全網の不備を浮き彫りにした。今や雇用者の3人に1人が非正規社員だ。このままでは将来の社会保障制度の維持が難しくなる。年の瀬なのに、ハローワークには失業者が列をなす。雇用の安全網の再構築と雇用制度全体の見直しが緊急の課題である。
今年は社会不安を引き起こす変な事件も頻発した。一つには、食の安全網の不備を突かれた事件である。中国製ギョーザ中毒事件は、完全密封された袋の内部から農薬が検出され、中国で混入した疑いが濃厚だ。だが、中国側の不十分な対応もあって未解決のままである。
基準値を超える農薬やカビに汚染された事故米を不正転売していた事件も食の安全を根底から揺るがす犯罪だった。加工業者だけでなく、監督する農水省の責任も重い。問われているのは国としての危機管理能力である。
身勝手で理不尽な凶行によって、尊い命が奪われる事件も相次いだ。秋葉原の無差別殺傷事件や元厚生次官らに対する連続殺傷事件などである。不気味なのは、どの容疑者も、動機が短絡的かつ自己中心的で通常の理解を超えている点だ。そうした凶行を抑止する社会の機能を高める工夫が必要である。国民の安心、安全を守る安全網の再構築について政府の役割が改めて問われた年だった。
≪根深い政治不全の構図≫
しかし、こうした安全網を期待する国民の声に対して政治はあまりにも力不足ではないか。与野党とも政策論議そっちのけで、解散・総選挙に向けた土俵をいかに有利につくるかに党利党略をめぐらすばかりである。
「あなたとは違うんです」と記者会見で大見えを切って退陣表明し、政局の変化を自らつくろうとした福田康夫前首相も政治の混迷に拍車をかけた。後を継いだ麻生太郎首相は景気悪化で解散のタイミングを失い、与党が参院で主導権を握れない「ねじれ国会」で苦悩する構図が続いている。
米国民は、「チェンジ」(変化)をスローガンに掲げたオバマ氏を大統領として選び、経済の立て直しを託した。オバマ氏の勝利は、金融危機によってもたらされたといってもいいだろう。新政権に期待されるのは、景気浮揚に向けた政策総動員である。
日本も取り巻く状況は同じであろう。年明け早々、雇用対策を含む第2次補正予算案や来年度予算案の審議が始まる。政争に明け暮れる暇はないはずである。
国際情勢をめぐる変化も気がかりだ。イラクの復興支援活動に当たっていた航空自衛隊は撤収したものの、インド洋での海上自衛隊による米軍などの艦船に対する給油・給水活動は来年7月まで半年間延長されることになった。ソマリア沖の海賊対策のため、自衛隊派遣の検討も始まった。
日本は来年、国連安全保障理事会の非常任理事国になる。今後、アフガニスタンへの復興支援について米国など国際社会から協力要請が強まるとみられる。
重病説も伝えられる北朝鮮の金正日総書記の動向と拉致・核開発問題では微妙な変化も見逃してはなるまい。
こうした内外の山積する課題に解を見つけていくのが政治の役割である。変化の先に希望の灯(あか)りをともすのは政治の責任だということを改めて認識してほしい。