主要国首脳が洞爺湖畔に集まってから、まだ半年もたっていない。チベット問題が影を落とした北京オリンピックの閉幕から4カ月あまり。麻生太郎首相の就任から3カ月強。オバマ候補が黒人として初めて米大統領選に勝利してから2カ月足らずだ。これらの出来事がずいぶん前に思えるほど、あまりにも急激な経済環境の変化に世界が揺れ、日本も揺れ続けた1年だった。
米国を震源とする金融危機は世界のすべての市場に甚大な影響を及ぼし、急速な景気冷え込みは雇用問題の深刻化を伴いながら年を越す。
空前の幅で相場が変動
年初に1バレル100ドルを突破した原油価格は7月に150ドル近い最高値を付け、今は40ドル前後だ。空前の幅で高騰し急落した原油相場は、経済激変の年の象徴ともいえる。
昨年夏に米国のサブプライムローン問題が噴き出すまで、世界の経済情勢は「資源高騰下の同時好況」と呼ばれていた。その後、今年夏までは「景気減速とインフレの同時進行」が焦点だった。秋以降は日ごとに世界不況の様相が深まり、デフレ色も強まっている。短期間に経済環境がこれほど大きく変わり続けたことが、かつてあっただろうか。
9月に米投資銀行リーマン・ブラザーズが破綻した衝撃は、とりわけ大きかった。実体経済に比べ膨張しすぎていたマネーの経済が猛烈な勢いでしぼみ始め、株式からも商品相場からも新興市場国からも、投資資金が一気に引き揚げて、主要国の国債やキャッシュに逃避した。米欧などで短期資金市場や社債の発行市場が一時、機能マヒ状態に陥った。
各国政府、中央銀行は国内金融機関への公的資金の注入を急ぎ、利下げや市場への緊急の資金供給など、対応に追われた。米連邦準備理事会(FRB)が12月に政策金利の誘導目標を実質ゼロまで引き下げ、量的緩和政策に踏み込んだことは、信用収縮の深刻さを端的に示す。
ローンやクレジットカード利用など家計が負債に大きく依存する米国では、住宅価格や株価の下落の影響に加えて信用収縮の広がりが消費を一気に冷え込ませた。世界最大の市場である米国の需要減退は世界中の企業に直接、間接の影響を及ぼす。対米輸出依存度の高い国々の景気も減速し、米景気が後退しても新興国の成長が世界景気を支えるという「デカップリング論」は色あせた。
需要の劇的な落ち込みが特に目立つのは自動車だ。11月の新車販売台数は前年同月と比べて米国が37%、欧州が26%、日本が27%も減り、中国、ロシア、ブラジル、インドなどでも軒並み減少した。
米国では資金繰りに苦しむゼネラル・モーターズ(GM)などビッグ3救済が政治の焦点になった。日本でも前年度に2兆円を超える連結営業利益を計上したばかりのトヨタ自動車が今年度は赤字に転落する見通しになり、衝撃が走った。関連産業のすそ野が広い自動車メーカーの苦境は、来年にかけて景気と雇用により大きな影響を広げていく。
日本では、年の瀬になって自動車メーカーなどを中心に非正規労働者の雇用を減らす動きが相次いだ。景気と雇用情勢の悪化が急速に進んでいるのに、政治の対応は後手に回った。福田康夫前首相の突然の退陣の後を継いだ麻生首相の支持率が短期間で急速に低下した最大の理由も、「政局より政策」と言いながら今年度第2次補正予算の提出を来年に先送りしたことだった。
枠組み見直しの契機に
麻生首相は年明け後の通常国会に提出する2次補正予算案と来年度予算案を「生活防衛のための大胆な実行予算」と呼び、世界で最初に不況から脱出することを目指すという。主要国が相次いで財政出動を拡大する中で日本の財政措置の規模も大きい。だが、定額給付金など効果が疑問視される政策もあるし、衆参ねじれ国会で審議が長引けば、政策対応はさらに遅れる。衆院選挙がいつごろになるかも含め、政治の展望は不透明なまま新年を迎える。
米国ではオバマ次期大統領が経済政策担当者をいち早く任命、1月の就任後2年間に300万人の雇用を創出する目標を掲げた。世論調査でオバマ氏への支持率は8割を超える。期待値の高さは最大の課題である経済政策の難しさの裏返しでもある。
金融危機に対応するため11月にワシントンで開かれた金融サミットは主要7カ国(G7)ではなく、中国、インド、ブラジル、サウジアラビアなども含む20カ国(G20)の枠組みだった。潤沢な資金を抱え、経済成長率も高い新興国抜きでは世界的な危機への対応が難しくなった国際経済力学の変化を示す。
今回の金融危機が、第二次大戦後に続いてきたドルを基軸通貨とし、米国のパワーに依存した世界経済の枠組みを、見直す契機になりつつあることも、認識すべきだろう。