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唯一の国立の図書館である国立国会図書館ができて、60年たった。
「真理がわれらを自由にする」
創立の精神を表す国立国会図書館法の前文の一節だ。東京・永田町の本館カウンターの上に刻まれている。
多くの情報を偏りなく集め、理解し、議論することで、新しい民主社会を築く。その基盤となる資料収集と分析が、ここに託された。戦後間もない1948年のことだ。
国内で出版された図書や新聞、雑誌、音楽や映像資料などを網羅的に集め、保存する。海外の様々な資料も収集する。それらを使って国会の活動を助けるのが第一の仕事だ。
資料を文化財として守り、利用してもらうことで、人々の暮らしや研究に役立てるのも大事な役割だ。
その国会図書館が近年、大きく変わっている。
「電子図書館」機能が充実し、インターネットで、誰でもどこからでも膨大な書誌データを検索したり、国会議事録を読んだりできるようになった。
明治・大正期に出版された約15万冊の本もパソコン画面で読める。国立公文書館や他の図書館などの資料を横断的に探すことも可能になった。国政の課題について、その論点や経緯、外国の事情などをまとめたリポート類も公開している。利用できる資料が飛躍的に増えている。
昨年、初めて国会の外から館長に就任した元京大総長の長尾真氏は、こうした事業を積極的に進めている。
一方、新たな課題も見えてきた。
国会を助ける仕事の重みが増している。07年度に議員が依頼した資料集めや分析は4万5千件。議員の立法活動が活発になり、95年度の2倍以上だ。しかし対応する職員は約190人。あまり増えていない。省庁の役人とは違う立場でのブレーン機能を果たすのは、この図書館の使命なのだから、もっと手厚い態勢がほしい。
資料収集の態勢も十分ではない。最近は、ネット上だけで発表される行政や学術の情報が増えているが、それを集める法的な根拠がない。放っておくと消えかねない自治体などのホームページを、今はいちいち許諾を得て保存している。公共性の高い機関のものは許諾なしで保存できるよう法律を改正し、収集の幅も広げてほしい。
海外の研究者も関心を寄せるマンガ雑誌の保存も悩みだ。インクがにじみやすく、短期間で絵がぼやける。デジタル化して保存・活用しようにも、現状では多くの関係者の許可が必要で事務コストが重く、手がつけられない。著作権に配慮しながら柔軟に対応できる仕組みが作れないだろうか。
国会図書館は国民の知の財産だ。その基盤を厚く強くして、次代に渡す責任がある。必要な手当てを急ぎたい。
ドーピング(禁止薬物の使用)問題にどう向き合うのか。スポーツにかかわる人にとって、その姿勢を改めて問いかけられた年だった。
1月には、シドニー五輪陸上の女王マリオン・ジョーンズが偽証で禁固6カ月の実刑判決を受けた。本塁打王バリー・ボンズ外野手らをめぐる米大リーグの激震も続いている。
そして北京五輪の男子ハンマー投げで、薬物違反の銀、銅メダリストが失格したのは今月のことだ。5位の室伏広治選手が3位へ繰り上がった。
アテネ五輪の金に続く2大会連続のメダルは大きな名誉だが、思えば4年前もドーピングによる繰り上がりだった。室伏選手は不愉快だろうが、薬物汚染の闇の深さを実感する。
ドーピングを取り締まる検査方法や基準が新年から変わる。大幅な改訂は6年ぶりだ。新規定では競技大会以外での検査は事前に通告する必要がなく、すべて抜き打ちとなる。
トップレベルの選手は、日々の居場所を3カ月先まで届けるよう義務づけられてきたが、これも強化される。
例えば、1日のうち60分間は確実に面会できる場所と時間を決めて報告しなければならない。病気など急用で検査を受けられない場合も、それが18カ月間で3回重なれば違反として選手資格停止などの処分となる。
現在では、メダルや成績が選手の収入や生活に直結する。そこで、突出した記録や成績に対して疑念が向けられる。なんとも息苦しい規定だが、選手は身の潔白を自ら証明せざるを得ない時代に入ったということだ。
こうした変化に、日本の意識は追いついていないように見える。
国内の反ドーピング活動は日本アンチ・ドーピング機構(JADA)が統括している。五輪競技はほとんどがJADAに加わっている。
ところが、サッカーと野球のプロリーグは別行動なのだ。
サッカーは今春、日本代表の経験者がドーピング処分を巡ってスポーツ仲裁裁判所に訴える騒ぎが起きた。プロ野球でも外国出身選手の薬物違反が相次いだ。プロスポーツは社会への影響も大きい。JADAと協調し、積極的に違反を防止すべきだろう。
何が悪いことで、どうすればいいのか。体にどんな影響があるのか。きちんとした啓発活動を、若い人を中心に草の根レベルにも広げてほしい。
近年は国体にも検査が導入されている。成分を確認せず市販薬を飲むといった「うっかりドーピング」で、出場できない例も出ている。
JADAは新年度から日本薬剤師会と連携し、スポーツファーマシスト制度を導入する。薬剤師の医科学的知識をドーピング防止に役立てるものだ。効果があがるよう期待したい。