信友浩一

九州大学大学院 医療システム学 教授

「ケア・ワークモデル研究会」が目指すもの

信友浩一

病院経営のためのマネージメント・ツールとして「SWOT分析」がありますが、診療の世界で「患者の問題(W)は何であるか?」をルーチン・ワークとしている人にはハッとさせられる発想に驚かれると思います。

最初のふたつは病院(患者に置き換えると)に注目した視点で、「S」は「Strength(強み、生命力)」、「W」は「Weakness(弱み、病気/障害)」、次のふたつは外部環境に注目したものですが「Opportunity(機会)」と「Threat(脅威)」です。

診療の視点は、患者の弱点を診断(原因─部位─病態)し弱点を削除・転換させることが主流ですが、確かにその視点で患者は死に難くはなりました。しかし、自立した生活を楽しめる(生きる力)ことにはどれだけ寄与出来ているでしょうか? 出来ていない、と言っているのではありません。死なないようにすると言う視点「弱いところは取り除く」だけでは、医が目指している[生老病死]への対応・ケアへの視点が不足しているのでは?と言う問題意識が出て来ました。弱点だけに注目するのではなく、弱点にはなっていない患者さんの傷ついたり障害されてはいない点に注目し弱点を補う・修正する、と言う視点。あるいは「障害者と言う人はいない、環境がその人を障害者にしているのである」とすれば、新たな患者への対応の視点も登場して来ます。

現代は、慢性疾患主流の時代、即ち、治らない時代でもありますので、患者さんは先ずは[治る]を目指し、次には「自立した生活を楽しめる」生活を望んでいます。故に、われわれ医療提供者は、常に、患者さんへの対応・ケアへの視点を複数用意しておく、即ち、複数のワークモデルを用意しておく事が望まれていると考えました。

以上の問題意識と夢を実現すべく準備して来ましたのが「ケア・ワークモデル研究会」です。参加される皆さんと共に患者の望みを裏切らないケアを築き上げて行ける事を願っています。