麻生太郎首相がソマリア沖の海賊被害対策で海上自衛隊艦船の派遣を検討するよう、浜田靖一防衛相に指示した。現状で可能とされる自衛隊法の海上警備行動に基づく派遣である。この海域での海上自衛隊の活動が現実味を帯びてきた。
首相が海賊対策で海自活用に言及したのは十月中旬だった。当初は新法を制定しての派遣案だったが、衆参両院のねじれ国会で成立のめどが立たない。そこで、まずは海上警備行動による派遣となったようだ。
ソマリア沖や周辺海域では今年、海賊事件が急増、二十四日現在で百九件と昨年一年間の倍以上に達している。各国が艦船を派遣しており、政府としては「ただ乗り」批判を恐れたようだ。加えて先日中国海軍も参加し、外務省を中心に「日本だけ乗り遅れるわけにはいかない」と焦りが出ているという。
しかし、首相の指示に対し、浜田防衛相は慎重な姿勢を示した。海上警備行動にはいろいろと制約があるからだ。
実際に派遣となればロケット砲や自動小銃で重武装した海賊との戦闘を想定しなければならない。だが、海上警備行動には警察官職務執行法が準用され、武器使用は原則として正当防衛か緊急避難に限られる。「ためらえば自分たちの命が危ない」「護衛艦の武器で応戦すれば過剰防衛にならないか」など、海自隊員には不安の声が強い。
防護対象には基本的に外国船は含まれず「外国船を守れないのでは国際的信用を失い、逆効果」との声もある。
ある自衛隊幹部は「国会で新法が通らないから取りあえず海上警備行動で、という発想自体に疑問が残る」と話している。こうした無理が出るのは海上警備行動がそもそも日本周辺海域での活動を前提とし、さらにいえば日本の法体系が基本的に今回のような事態を想定していないからだ。現行憲法に基づく戦後の歩みからしていうまでもないことで、だからこそ今回も最初に新法制定案が出てきた。
海上警備行動であっても、自衛隊の海外派遣のなし崩し的な拡大につながりかねない点ではこれまでと同じだ。海外での自衛隊の活用には、抑制的な姿勢が求められる。
年が明ければすぐに国会が始まる。いわれてきたように、海賊対策の根治療法としてはソマリア国内の安定が欠かせない。自衛艦派遣以外にも日本ができる貢献策はある。国会の場で、幅広い視点に立った与野党の建設的議論が望まれる。
警察庁が、七十五歳以上の高齢運転者を対象に罰則付きで義務付けた「もみじマーク」の表示について、罰則のない努力義務に戻す道交法改正試案をまとめた。年明けの通常国会に改正案を提出する。
表示は今年六月の改正道交法施行で義務化され、違反すれば行政処分の点数一点と反則金四千円を科すとした。だが、施行前に後期高齢者医療制度問題と関連づけ「高齢者いじめ」と批判の声が上がり、摘発開始を来年六月からに先送りしていた。デザインも「枯れ葉のようだ」と前々から不評だった。
異例に早い“再改正”で、一貫性を欠くとの批判もあるようだが、世論に敏感に応える柔軟な対応との見方もできよう。警察庁は幼児二人を自転車の前後に乗せる三人乗りについても母親らの声で禁止徹底の方針を転換、今夏、安全確保の基準を満たす自転車は認めるとした。
しかし、もみじマークをめぐって考えるべきは、高齢運転者の事故抑止という大目的であろう。昨年の全国統計では自動車乗車中の事故死者数の三割を六十五歳以上の人が占めた。高齢運転者による事故多発の状況を打開するため、もみじマークが義務化された。罰則撤回が事故の増加につながるようなことがあってはならない。
マークをつける人が増えたことで、より注意するようになったと感じている人も多かろう。警察庁はマークのデザイン変更も検討するという。現行と同等以上の効果があり、受け入れやすいデザインが望まれる。
警察庁は高齢者の利用が多い病院などの周辺に駐車スペースを確保する制度新設なども試案に盛り込んだ。こうした高齢運転者の支援策充実は大切だし、安全運転講習や啓発にも一段と力を入れる必要があろう。
(2008年12月29日掲載)