神戸港の船倉でアスベスト(石綿)を扱い、肺がんで死亡した男性の遺族が、労災保険の遺族補償給付金などをめぐる国の不支給決定は違法だとして、処分の取り消しを求める訴訟を年明けにも神戸地裁に起こす。男性は、石綿吸引を示す石綿小体の数が、労災の認定基準を下回っていた。遺族は「石綿が原因で死亡したのは明らか。一律に切り捨てるのは不合理だ」としている。
遺族の代理人弁護士によると、男性は1961年から約40年間、神戸港で石綿原石の数量などを調べる検数員として働き、入港した貨物船の船倉内で、大量の白石綿を吸い込んだという。退職から2年後の03年、肺がんを発症。05年末に神戸東労働基準監督署に労災申請したが、翌06年1月に64歳で死亡した。
死亡後、同労基署は神戸市内の病院に保存されていた男性の肺組織を調査。石綿小体の数が肺組織1グラム中約740本と、労災認定基準の5千本を下回り、06年7月、不支給を決めた。男性は生前、「船倉内は袋から漏れた石綿で雪が降ったようだった」と話していたという。
石綿小体は、肺組織内に残った石綿繊維にたんぱく質などが付着してできる。しかし専門家による厚生労働省の検討会は06年、白石綿の場合は小体を形成しにくいとの見解を示し、同年、新潟市の男性が石綿小体が約400本で労災認定を受けた例もある。同省は、小体が基準に満たない場合は「作業内容などから総合的に判断する」としている。
支援団体「ひょうご労働安全衛生センター」の西山和宏事務局長は「石綿小体の数という基準がひとり歩きし、救済の道が閉ざされている。早急に運用を改めるべきだ」と指摘する。(千葉雄高)