[東京 29日 ロイター] 早稲田大学大学院の野口悠紀雄教授はロイターとのインタビューで、今回の世界的な金融危機で最大の影響を受けるのは外需に依存する日本で、米国の経常赤字が収縮する今後3年間は年率3%のマイナス成長が続く可能性があると語った。
自動車など従来型産業が生き残るのは困難で、日本は新しい産業の創出が不可欠だという。金融危機の発火点である米国でも産業の2極化が顕著になると予想するが、市場主義経済が終えんを迎えたと考えるのは誤りであり、米国に資金が還流する世界経済の構造や、金融ビジネスが大きく変わることはないだろうと指摘した。
インタビューの主なやりとりは以下の通り。
──今回の金融危機が世界経済にもたらす影響は。
「最大の影響を受けるのは日本。これから未曾有の危機を迎える。米国の経常赤字はGDP(国内総生産)の6%に当たる約70兆円あり、これでは経済が持続可能ではないから金融危機が起きた。米国の過剰な消費は減少し、輸出国の日本や中国などがこれからさらに打撃を受ける」
「米国経済は、経常赤字がGDPの3%程度まで半減しないと持続できないと言われている。03年以降拡大した日本の貿易黒字はゼロになる可能性がある。日本の経済見通しは来年度マイナス1%程度と言われているが、とてもそれでは済まない。中国の対米輸出も減少しており、タイムラグで日本の対中輸出も減少する。日本はマイナス3%程度の成長が3年間は続くだろう」
──政府の規制や介入を招き、市場主義経済は終えんを迎えたとの指摘がある。
「確かに空売り規制の強化という市場原理に反する規制を導入せざるをえなくなった。しかし、80年代来の市場主義経済の大きな流れが変わることはありえない。危機の時に政府が介入してくるのは当然だが、世界が旧ソ連のような経済に逆戻りすることはない」
「金融ビジネスが変わるのは間違いないが、あくまで一部が変わるだけ。米国の投資銀行は借り入れで大きなレバレッジを利かせ、かなりハイリスクな投資をしていたが、これはなくなる。CEO(最高経営責任者)が法外な報酬を手にすることもなくなるだろう。そもそも今回の危機は、資産の価格付けをする際に金融理論や金融工学を利用せず、それに似て非なる格付け機関に依存したために起きた」
──米国を中心とする世界の経済構造は変わるか。
「日本や中国、産油国から米国に資金が還流するという循環は変わらないだろう。日本の経常黒字も産油国のオイルマネーもなくならないので、どこかに投資をしなくてはならない。米国以外で適当な投資先は見つからない。米国の経常赤字も減少するにしろ、なくなることはない」
「インドや中国の成長で世界経済はデカップリング(非連動)するという期待があったが、それはない。インドも中国も、日本と同じく米国と一体化している。むしろ米国内でデカップリングの兆候が見られる。今のような状況でもグーグル
──日本が取るべき対応は。
「今回の金融危機で問題を突きつけられているのは米国よりも日本。典型的な日本型経営のトヨタ自動車<7203.T>が生き残りに疑問符が付けられ、日本の基礎を支えてきた輸出産業が現在のビジネスモデルでは存続できないと宣告された。金融でも良いし、新しい製造業でも良い。日本は何かを見つけないといけない。でも金融は無理かもしれない。小泉改革のころから金融立国を目指していたが、それを支える専門家もいなければ社会的なインフラもない」
──日本にはなぜアップルのような企業が生まれてこないのか。
「ソニー<6758.T>の成功体験が残っているからだ。ソニーはウォークマンやブラウン管テレビで成功したメーカーで、そこで働く技術者にiPodは受け入れられない。新しいものは焼け跡からしか生まれない。米国にもゼネラル・モーターズ(GM)
*このインタビューは12月15日に行いました。
(ロイターニュース 久保 信博記者;編集 田巻 一彦)