「女優としての自分を核に、歌にアプローチしてきた」という斉藤由貴=門間新弥撮影
一瞬にして、恋を知り始めた時代に引き戻される歌がある。「卒業」で85年に歌手デビューした斉藤由貴の歌声に、青春を重ね合わせる人も多いだろう。23日に東京・浜離宮朝日ホールでコンサートに臨む斉藤に、歌に対する思いを聞いた。(藤崎昭子)
女優としての活躍が目立つ斉藤だが、今年3月に東京・パルコ劇場で13年ぶりに単独コンサートを開き話題を呼んだ。「歌から遠ざかるつもりはなくて、なんとなくご縁がなかった。気持ちとしては、芝居もドラマも歌に対してもいつもニュートラル。自分から能動的にこれをやりたいというのがないんです」
久々のステージは緊張の中で幕を開けた。3児の母になり40代を迎え、他人の前でまた歌う自分を、客観的に見過ぎていたという。「いちばん強かった感想は『照れくさい』でした。私のファンは超まじめな人が多くて、みんなしゃっちょこばってて。でも『緊張はお互い様ですよ』って。そう開き直ってから、ちょっと気が楽になりました」
歌を通して自分が表現できることが楽しかった。23日の公演は、室内楽の音響で定評のあるホールで歌うことに好奇心をそそられ引き受けた。だが、歌手活動を本格化させるつもりはないという。「すごく親しい友人は、何年ぶりに会っても昨日まで一緒だったような感じにすぐ戻れますよね。そんな風に、私にとって歌の主人公や芝居の役は一番近しい友達なのかもしれません。だからどれだけ遠ざかっても、また飛び込める」
「卒業」「情熱」「悲しみよこんにちは」「夢の中へ」など、18歳から20代にかけてヒット曲を連発。澄んだきゃしゃな歌声に、心の揺らめきを鮮やかに映し出した。
「当時は楽曲の真ん中に自分がいて全体像がとらえられなかったけれど、今は、その時代にどんな状況にいて、どんな恋をしていたかも俯瞰(ふかん)できる。自分のことで精いっぱいだった愚かさやおかしみを思ったりもします。私にとって歌は切ない世界。切ない思い出がたくさんあります」
幼稚園へ子どもを送り迎えする車の中で、かつての歌を公演資料として聞いている。息子に「マミ(お母さん)の声きれい! 大好き!」と絶賛され、勇気づけられた。
だがやはり、その歌声を最も待ち望んでいるのは、長年のファンだろう。「恋を知り始め、将来がわからなくて、あがいて、切ない思いをたくさんした頃って、人生の中でもすてきな時期だと思います。その時代の曲として私の歌がはまっている人には、きっと楽しんでもらえるはず。でも歌詞が覚えられなくて……がんばります」