金融危機が世界中を覆い、お金の流れが凍りついてしまった。欧米の主要金融機関は、政府から注がれた資金でどうにか持ちこたえている状況だ。その大波に最初にのみ込まれたのが自動車産業だ。
自動車は値が張るためローンを使って購入する人が多い。金融危機により、金融機関同士の資金の貸し借りができなくなり、それが一般のローンにまで広がった結果、自動車を買おうとしてもローンが組めなくなっている。自動車の販売は急速に落ち込んでいる。
昨年度は2兆円を超す営業利益をあげたトヨタ自動車が、今年度は赤字に転落するという。世界最強と言われたトヨタでさえ、一気に苦境に追い込まれてしまった。ほかの自動車メーカーの状況も推して知るべしだ。
国内の自動車生産は11月に前年同月比で約20%も落ち込んでいる。自動車も含め貿易全体でみても同月の日本の輸出額は前年比で26・7%の減となり、鉱工業生産指数は前月比8・1%低下するといった具合に、恐ろしくなるような数字が次々に発表されている。
自動車に限らず日本の輸出企業の急速な業績悪化は、販売不振による打撃に加え、円高が追い打ちをかけた結果だ。
長期にわたるゼロ金利政策のもと、だぶついた国内の資金は海外に向かい円安が進行した。
超低金利を維持して円安を演出し、それによる輸出拡大で経済の回復を図る。後に上げ潮路線と呼ばれるようになったが、小泉政権時から経済運営の基本的なスタンスは上げ潮路線だったと言っていいだろう。
しかし、米国発の金融危機でこの円安バブルが崩壊してしまった。これが企業業績の悪化を加速させている。しかも、これと並行して進められたのが派遣労働の対象拡大で、現在の非正規雇用者の大量解雇につながっている。
極端な政策には反動が伴うことを示した格好で、小泉改革とは何だったのか、長すぎたゼロ金利を含め経済政策の面でも検証が必要だろう。
今回の世界的な景気後退が終息するのがいつになるのかは定かではない。米国のビッグ3は政府に支援を要請する以外に、生きるすべがない状態だ。
その過程で淘汰(とうた)も起こるだろうが、自動車メーカーの選別が本格化するのは、経済が正常に戻った後なのかもしれない。
原油などの資源制約、温暖化対策に直面することになるからだ。その先を見据え、苦しい時になお、愚直に技術を磨き、次に備える企業であってほしい。
毎日新聞 2008年12月29日 東京朝刊