米国の政権移行期にパレスチナで深刻な事件が起きた。事態沈静化へまずはブッシュ米大統領の努力を求めたいが、中東外交に消極的なブッシュ政権にどこまで期待できるか。オバマ次期政権の発足を待つしかないのか、と苦い思いが込み上げてくる。
イスラム原理主義のハマスが実効支配する自治区ガザをイスラエル軍が空爆したのだ。死者は300人近いとの情報もある。イスラエル側もロケット弾攻撃などで死者が出たという。
1日の死者数としては中東戦争以来と聞くと暗然たる気分になる。21世紀の今、なぜこうした流血が続くのか。しかも欧州から遠くない地域で、と多くの人は首をかしげるに違いない。
さらに深刻なのは、この紛争には公正で力のある仲介者がいないことだ。米露や国連などによる調停の枠組みはあるが、イスラエルを説得できるのは実質的に米国だけだ。
その米国は昨秋、08年末までの中東和平合意の達成に努めることを表明したが、ブッシュ政権はさして努力した気配もなく早々に達成を断念したようだ。
今回の空爆に関してハマスは反撃を宣言し、イスラエル側もガザへの地上侵攻を辞さない構えだ。双方に自制を求めたい。これ以上、犠牲者が増えないよう、国連安保理やアラブ連盟なども知恵を絞ってほしい。
たとえ暴力の連鎖が容易に終わらないとしても、国際社会に求められるのは双方に存在する和平への意思を育て、融和を仲立ちすることだ。1月で任期が終わるブッシュ政権は、最後にパレスチナの流血回避に全力を挙げてはどうか。
和平仲介は、ブッシュ政権が推進する「テロとの戦争」にも重要だ。反米感情を改善し、パレスチナ人への同情に名を借りたテロを抑止する効果も期待できる。米国の識者らからそう忠告されてもブッシュ大統領は仲介に消極的だった。
米国ではユダヤ系組織が強い影響力を持つため、米政府がイスラエルの譲歩を必要とする和平仲介に乗り出すのは難しい側面もある。ユダヤ系組織の反感を買えば大統領再選は難しくなると言う人も多い。
実際、エジプトとイスラエルの和平を仲介したカーター氏も、91年に歴史的な中東和平会議を開いたブッシュ氏(現大統領の父親)も再選に失敗した。クリントン政権がイスラエルとパレスチナの首脳を集めて集中的な仲介をした00年は、2期目の終盤にあたる。
しかし、オバマ氏は前例にとらわれず、1期目から仲介に努めてほしい。「恒例」により1期目は仲介を避けるなら、ブッシュ政権の8年と合わせて十数年の空白が生じる。米国の仲介が難しいというなら、国連を中心とした実効ある枠組みに転換すべきだ。パレスチナの惨状は一日も早く終わらせなければならない。
毎日新聞 2008年12月29日 東京朝刊