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1日の空爆としては恐るべき死者の数である。イスラエル軍によるパレスチナ自治区ガザへの攻撃で、初日の27日に200人以上が犠牲となった。
イスラエル軍はイスラム過激派のハマスの拠点が標的だとするが、人口密集地のガザでは民間人と武装勢力を選別して攻撃することは不可能だ。
イスラエルは「過激派に対する対テロ戦争」と主張するが、あまりにも人命を軽視した行為ではないか。
国連の潘基文(パン・ギムン)事務総長や欧州連合(EU)は「即時停戦」を求めた。国連緊急安保理も招集された。国際社会は何よりもイスラエルに対して軍事行動の自制を強く迫る必要がある。
イスラエルは昨年夏以来、ハマスが実効統治するガザ自治区の封鎖を続けている。これに対してハマスはイスラエル南部の都市に向けて手製のロケット弾を撃ち込んだ。6カ月前に停戦が成立したが、それが今月18日に切れた。ハマスが攻撃を再開し、今回のイスラエルの大規模空爆となった。
ハマスのロケット攻撃は非難されるべきだ。威力や命中精度が低いとはいえ、いつ飛来するかも知れないロケット弾へのイスラエル市民の恐怖は理解できる。だが、67年の第3次中東戦争以降最も激しいとされる今回の空爆はあまりに唐突で「過剰な武器使用」(潘事務総長)と言わざるを得ない。
イスラエルがこの時期にこうした強硬な行動に出た理由として、国内外の政治的な背景を指摘できるだろう。
国内的には、総選挙が来年2月に控えていることだ。世論調査などによると、現在のカディマと労働党の与党連立は、対パレスチナ強硬派のリクードに対して劣勢と伝えられる。軍事的な強硬姿勢を示して、国民の支持を盛り返そうという狙いではないか。
外的な要因は来月の米政権の交代だ。対テロ戦争を進めたブッシュ政権から、対話や協調を掲げるオバマ政権になる。次期大統領の和平攻勢をあらかじめ牽制(けん・せい)しておこうとしているのではないかという見方が可能だ。
イスラエルは攻撃の継続を掲げ、ハマスは報復を宣言した。アラブ世界にも攻撃への怒りが広がっている。紛争を拡大させてはならない。レバノン人1千人以上が死んだ06年夏のイスラエル軍の侵攻と空爆も、ガザでの衝突が原因だった。
危機を抑え込むには、米国の指導力が必要だ。イスラエルを説得して攻撃を停止させ、さらにアラブ諸国のハマスへの影響力を生かして新たな停戦合意をつくるしかない。
米国はこれまで安保理などで常にイスラエル擁護の姿勢をとってきた。しかし、中東で流血が続くことはイスラエル自身がいつまでも苦しみ続けることでもある。真の友人を自任するなら全力で説得にかかってほしい。
かばん一つに少しの着替え。財布には小銭だけ。そんな姿が師走の街に広がりだした。突然の解雇や派遣切りで社員寮を追われた人たちだ。
ネットカフェで浅い眠りにつけるのも、初めのうちだけ。財布が空になったあとは、公園で寝る決意も出来ず一晩中あてもなく街をさまよう。
もともと年末年始は、日雇い労働者らが仕事にあぶれやすい時期だった。
しかし、今年の年の瀬は違う。いつもなら年が明けて世の中が回り出せばまた仕事につけた。この冬はそれが期待できない。
その上、ついこの間まで工場などで働いていて、初めて路上で夜を過ごすという人たちが目立っているのだ。
「来春までに職を失う非正社員は3万人」と厚生労働省が発表したのは11月末のことだ。その後、わずかひと月で8万5千人にはね上がった。
途方に暮れて自ら命を絶つ人が出てきた。体調を崩しても医者にかかれない。食べるものに困って金を奪おうとした。そんな事態が起きるほど、深刻さは増している。
追いつめられた人たちをなんとか支えたい。そんな思いに突き動かされるように動き出した民間団体や労働組合もある。失職者への生活相談や、路上での炊き出し。解雇した企業との交渉。霞が関や自治体への働きかけ。当事者には大きな助けとなる。
失職者を新たに雇おうという外食産業や学習塾も現れた。政府より早く公営住宅を提供し始めた自治体もある。
公民館を開放する。寺や体育館、空いている企業の施設などをしばらく使わせてもらう。そんな工夫も地域ごとに、どんどん進めてもらいたい。
それにしても、政府や国会の動きの鈍さはどうしたことなのか。
麻生首相に提案したい。冷え込む夜の街を歩き、職と住まいを失った人の切実な声をまず直接聞いてはどうか。
雇用崩壊というべき事態である。新たなホームレスを生まないために、失業や倒産でつまずいた時の安全網を今こそ張り直さなければならない。
明日はわが身かもしれない。もしいま解雇されたら、自分はどんな手だてや制度で身を守れるか。支えの弱さを実感する人も少なくないはずだ。
雇用保険に入っていなければ、職を失った時が心配だ。来年は生活保護に頼る人もいっそう増えるだろう。「働きなさい」と若い世代を門前払いにしてきた一部の自治体の対応も、早急に改めてほしい。
働き方も見直したい。立場の弱い非正社員が雇用の調整弁となる。恐れていた事態はいとも簡単に現実のものとなった。どんな仕組みがあれば、労働者が使い捨てられずにすむのか。労働者派遣法はどう変えるべきか。
不況の年の瀬にもう一度考えたい。