「変」に揺さぶられたこの一年。人々の心に暗い影を落とし、社会の「病」を浮き彫りにしたのは、通り魔による無差別殺傷事件の続発だろう。
警察庁によると、十一月末までに過去最悪の十三件発生し、四十二人が死傷した。「誰でもよかった」。容疑者が語った供述は、今年の犯罪を象徴するフレーズともいえる。
衝撃的だったのは、歩行者天国で起きた東京・秋葉原の事件だ。七人の命が奪われ、十人が重軽傷を負う未曾有の惨事となった。身勝手で理不尽な通り魔事件が、連鎖的に新たな事件を誘発したのはやり切れない。
作家の五木寛之さんは「鬱(うつ)の時代」なのだと言う。人間関係が希薄になり、孤立感を深める人が増えているのだろうか。年間自殺者が十年連続で三万人を超える深刻な実態も気がかりだ。
「これほど人間の命、生命というものに対する軽さがドラスティックに進んでいる時代はないのでは」と、五木さんは近著「人間の覚悟」で指摘する。かけがえのない命と思えば他人の命も尊重できるはず。自殺者が増えることと、他人の生命を損なう凶悪事件が多発するのは「表裏一体」とも言う。
他者を思いやる感性や命の実感が失われ、心の絆(きずな)が壊れている要因は何なのか。ネット社会の負の側面がからんでいるように思えてならない。