来年度から三年間の新しい介護サービスの報酬単価が決まった。低賃金で人手不足が指摘されている介護職員について、専門性や業務の過重さを考慮して報酬を手厚くすることが柱となっており、介護報酬全体では3・0%の引き上げとなる。
介護保険制度が二〇〇〇年度にスタートして以来、プラスの改定は初めてである。介護業界を中心に叫ばれていた引き上げの要望に応えたことは評価したい。介護職員の待遇改善にぜひつなげてほしい。
介護報酬は、原則三年ごとに改定され、介護サービスを提供した事業者に支払われる。利用者は年々増えており、給付費の増加を抑制するため、二〇〇三年度2・3%、〇六年度は2・4%と連続してマイナス改定された。しかし、介護事業所の経営を圧迫することとなり、人手不足が深刻化した。
「夜勤や力仕事が多い」「将来設計が描けない」など、介護現場の不満や不安は他業種に比べて高い離職率に表れている。介護福祉士を養成する大学や専修学校の入学者も低下傾向という。人材確保に向けた対策は待ったなしといえよう。
政府、与党はこれまでより二カ月も早く十月に、来年度改定での報酬アップを打ち出した。引き上げに伴う保険料の急激な負担増を避けるため、千二百億円の基金を創設することを追加経済対策に盛り込んだ。
今回決まった改定の中身では、訪問介護での短時間サービスの単価引き上げや、夜勤職員や介護福祉士の配置が手厚い施設への報酬上乗せが盛り込まれた。認知症患者受け入れや終末期のみとりなどに対しても報酬が上乗せされた。
また、人件費が高い大都市部や、効率的な運営が難しい中山間地域の事業所を対象にした上乗せもある。さまざまな課題に直面する介護現場に対して、サービスの内容や地域性、事業規模などに応じた配分の工夫がうかがえる。
ただ、職員給与は経営者との労働契約で決まり、どう配分するかは経営者次第だ。3%アップで約八十万人の常勤職員の給与に換算すると月二万円超になるとされるが、どれだけ給与に反映されるか、疑問視する向きもある。
報酬引き上げは利用者の自己負担の増加を伴う。介護職員の待遇改善にどう生かされているか、検証するための仕組みも必要だろう。若者が意欲を持って働ける介護職場づくりへ着実に歩を進めたい。
内閣府が公表した二〇〇八年版国民生活白書は、消費者庁の創設を前に「消費者」に本格的に焦点を当て、主体的な社会構造の組み替えによる「消費者市民社会」の実現を目指すよう求めている。
「消費者市民社会」について白書は、消費者・生活者が社会の発展と改善に積極的に参加する社会と定義付ける。〇七年度に消費者が支出した総額(家計最終消費支出)は二百八十四兆円に上る。消費者が何に支出するかは企業や日本経済全体に大きな影響を及ぼす。この力を望ましい社会や市場の変革に生かそうという訳だ。
内閣府の意識調査では、「社会の役に立ちたい」という人は約70%に及んでいる。だが、自らの消費行動で実践しているケースはまだまだ少ない。具体的な行動にどう結び付けられるかが大きな課題といえよう。
例えば、不祥事を起こした企業に対して消費者はペナルティーを与える厳しい行動をとることが多い。これに対して、白書は「望ましい市場経済に変えていくにはまだ不十分だ」という。もう一歩進めて、食品・製品の安全性や誠実な企業を見分けて支援、育成していくリーダー的な存在としての「消費者市民」の必要性を強調する。
消費者の積極的な選択は、企業や市場、さらには社会の在り方を変える力となる。その前提は社会変革への情熱と正しい認識に基づくものでなければならない。しかし、消費者を取り巻く環境は一段と複雑化、多様化しており、安全や誠実さの見分けがつきにくいのが現状だ。悪質商法や偽装などによる消費者被害も依然として多い。
消費者・生活者による影響力が効果的に発揮できるよう、国は、より具体的な取り組み策を示す必要があろう。
(年月日掲載)