休憩所
休憩室
あいのこ人

作家
なだ いなだ

 ぼくの妻はフランス人で、ぼくの子どもは「あいのこ」である。混血だとか、ハーフだとか、いろいろな表現があるが、発音してみると「愛の子」というイメージがわくので、ぼくはこの表現を使う。蔑称だから避けろという人もいるが、ぼくは、よい意味に使っているうちには、悪い印象もなくなるだろうと考えている。
 ぼくの娘たちは、子どものころ、近所のガキどもに「やあい、フランス人」とはやされて「あたしは、日本人じゃないの」とぼくに聞きにきた。そこで「日本人でもある。フランス人でもある。そのあいのこだ」と答えると外に行って「あたしはあいのこ人だぞ」と怒鳴り返した。
 アメリカにオバマ大統領が登場する。かれは最初のアフリカ系黒人大統領という呼ばれ方をするが、なぜそう呼ばれるのだろう。なぜ、かれはアメリカ人とケニヤ人とのあいのこだ、といわれないのだろう。ぼくの娘たちは、黄色人と白人との混血とも、あいのことも呼ばれなかった。しかも、オバマ氏はあいのことさえ呼ばれない。ただ黒人である。まるで純白でなければ白人とはいえないかのようだ。この呼び方は、まだまだ黒人に対する人種差別の意識が残されていることを証明するものだと思う。
 だが、二〇世紀を通して見ると、人種差別の解消がよくここまできたという感想の方が強い。それにはオバマ氏に至るまで、世界での黒人の活躍があった。国連のコフィ・アナン事務総長、アメリカのパウエル国務長官、ライス国務長官などの姿を、国際ニュースで毎日のように見てきたから、アメリカの大統領にバラク・オバマ氏が選ばれても、なんの違和感も抱かないのだろう。こころの準備ができていた。
 国連総会でのアナン事務総長の演説と、その後のブッシュ大統領の演説を聞いて比較した者は、前者の美しい英語表現に驚いたはずだ。パウエル元国務長官は、大統領選挙に出れば、当選間違いなしといわれていた。だが、妻が、暗殺を心配して反対したので、立候補を断念した。その代わり、アメリカ初の、黒人国務長官になった。ブッシュ政権の中で、国際社会から信用を得られた唯一の常識人であった。こうした流れを見ていると、日本社会の意識は、大分遅れているように思う。在日の二世や外国からの移民が、議員に選ばれ、首相になる日はいつ来るのだろう。


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