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ところが、これだけのことがわかっているにもかかわらず、 04年の執筆時に、これらの点について道警に公式見解を求めたところ、「現在のところ、そのような事実は把握しておりません」(北海道警察本部総務部広報課)というコメントが返ってきたのみだった。
それだけに、半年後、道新の社会面トップ記事を見た時の私の思いは複雑だった。完全な後追い記事であるにもかかわらず、あたかも自社のスクープであるかのように派手に書き立てるそのやり方に、正直愉快な気持ちはしなかったが、それでもこの記事によって、再びこの大スキャンダルが世間の注目を集める契機になれば、それはそれでいいのではないかとも思った。だが、この“スクープ”報道はその後、奇妙な展開を見せることになるのである。
記事が掲載された5日後の3月18日、道警本部は総務部長名で道新編集局長宛てに「質問状」を送付、「どのような根拠に基づいて事実を確認したのか」などを問い質した。道警が記事の訂正・謝罪を正式に要求するのは2ヵ月後の5月のことである。
たしかに道新の記事には道警から「捏造」と批判されても仕方のない部分がある。たとえば、新聞記事には〈道内に流入した疑いのある問題について、道警は事実関係を否定し〉との記述がある。だが道新は、この「公式見解」を道警の誰に質したのかという情報さえ“取材源の秘匿”を理由に開示を拒んでいる。要は、道警に公式な取材をせずに書いた可能性があるのだ。
また、前述したように、この泳がせ捜査は道警銃器対策課と函館税関が合同で行ったという旨の記述があるが、私が取材したかぎりでは、道警が税関と合議の上でCD捜査を組織的に指揮した事実はない。CD捜査を行うには、公安委員会や裁判所も含めた上で、煩雑な手続きが必要とされるし、それだけ大がかりな捜査であれば、当然道警本部長が指揮する案件になる。だが、取材の結果、そのような痕跡はなく、むしろ、稲葉ら一部捜査員の“暴走”と見たほうが自然である。
ただし、仮にそうであったとしても、稲葉のCD捜査については、暴力団関係者などを通じて、道警幹部らの耳にもリアルタイムで届いていた。したがって、「道警が公式に認めた捜査」ではないかもしれないが、稲葉たちの行動を止めなかったという意味においては、道警は“不作為”を糾弾されてしかるべきなのだ。
誤解を恐れずに言えば、道新が道警の公式見解を捏造しようと、「大麻2トンが密輸された」などという素人丸出しの報道(2tもの大麻を船で密輸するのは物理的に不可能だ)をしようと、そんなことはどうでもいいのだ。問われるべきは129 kgもの覚醒剤が、一部の警察官の暴走捜査によって国内に流入してしまったという事実、そして、その事実に目を背け続けている今の道警の姿勢なのである。
道警は今日にいたるまで、道新に対して執拗な抗議を行っている。一部を捏造であると認めさせることによって記事のすべての信憑性をゼロにしようと狙っているのは明白だ。今年の1月 14日、道新は、〈この記事は泳がせ捜査失敗の「疑い」を提示したものであり〉〈裏付け要素に不十分な点があり、全体として誤った印象を与える不適切な記事と判断しました〉という趣旨の「おわび」を掲載した(にもかかわらず、同じ日付の第2社会面では記事の正当性を主張するという不思議な紙面構成になっている)。誠に不毛な議論である。
そもそも、このスキャンダルを最初に報じた私のところには、道警は抗議文ひとつ寄こさない。それどころか、道警・道新両組織の関係者から私のところに密かに連絡があり、「この件については口を出さないでほしい」と、“圧力プレツシヤー”までかけてくる始末だ。 |
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実は、稲葉逮捕後に所在不明になっていた2人の捜査協力者・石上とマリックの姿が、昨年末ごろから再び札幌や小樽で目撃されている。昨年6月、私は「小樽にマリックがいる」との情報を得て、居場所をつきとめ、彼に直撃取材を試みようとしたが、私の姿を見るなり、彼は車を急発進、Uターンさせて“逃亡”してしまった。
その後、「マリックが1月 27日にパキスタン航空で成田着、また日本にやって来たぞ」という情報を私に教えてくれたのは道警の現職警察官だった。末端の捜査員の中には、彼らを糸口に、流入してしまった覚醒剤による被害を少しでも減らすべく、このスキャンダルの捜査を切望している者も多い。
何度でも言う。不毛な非難合戦はもう止めにしてほしい。道警の不作為によって覚醒剤流入という恐ろしい現実が闇に葬られてはならない。実態を解明するための手段はいくらでもある。道警も、新聞イジメに精を出すのではなく、道民の安全を守るという本来の使命に立ち返って奮起してほしいと切に願っている。
(文中一部敬称略) |
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