アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)
生まれながらにして自由、すべての差別の禁止、法の下の平等……。
人類とすべての国家が達成すべき人権の基準として、世界人権宣言が国連総会で採択されたのは、1948年12月のことだ。
60周年にあたる今年、どれだけ人権が守られているかを定期的に調べている国連規約人権委員会が、日本政府に対して5回目の審査を行った。
この間に日本の人権状況もずいぶん改善されたが、まだまだ多くの難題が残っている。それを反映して、審査の結果は多岐にわたる。それらの改善に取り組みたい。
たとえば、容疑者の勾留(こうりゅう)場所を警察の留置場にしている代用監獄の制度は廃止すべきだと今度も勧告された。
警察、検察は取り調べの可視化に取り組み始めたが、録画が一部に限られていることにも懸念が示された。
いずれも、うその自白を防ぐために国際標準となっているものだ。それがまだ足りないという指摘だ。
「研修」などの名の下に来日する外国人が労働関係の法律や社会保障に守られず、最低賃金よりも低い額で搾取されているとも批判された。
また、政府批判のビラを郵便受けに入れた活動家や公務員が住居侵入罪や国家公務員法違反罪で逮捕・起訴されたことも取り上げられ、表現の自由、政治活動の自由に対する制限は撤廃すべきだと勧告された。
なかでも深刻に受け止めるべきなのは、公権力などによる人権侵害をやめさせる救済機関を政府から独立して設けていないことへの批判だろう。
同じことは10年前の前回勧告でも言われた。そこで政府は02年に人権擁護法案を国会に出した。しかし、救済機関を法務省の外局としていたことに、「独立性が保てない」と野党が反発した。また法案には、救済対象にメディアの取材による被害も含まれており、報道規制につながる規定に対する批判も加わって結局、廃案になった。
政府・与党は今年、国会への再提出を目指したが、自民党内の一部に反対があってまとまらず、法案化の作業は中断したままだ。
法務省に属する刑務所や入国管理施設での人権侵害を監視するためにも、救済機関は、法務省の傘下ではなく独立した部門にすべきだ。救済に携わる人権擁護委員の人選をめぐっては、特定団体の影響が強まらないかとの懸念もあるが、公正な選任制度を確立すれば、それに応えられよう。また、報道の自由の規制につながるものは盛り込むべきでない。
そのうえで、救済機関を早急につくりたい。手をこまぬいている、と国連規約人権委員会から指摘されるよりも前に、まず私たちにとって必要な制度であるからだ。
5月に宇宙基本法ができてから初となる来年度の政府予算案で、宇宙関係は3488億円と、前年度の10%増という大盤振る舞いが認められた。
宇宙技術を育て、国民の役に立てていくのは大切なことである。
しかし、内閣官房に置かれた宇宙開発戦略本部が来年の宇宙基本計画づくりに向けて今月まとめた基本方針を見ると、本当に日本の宇宙開発が活発になって国民生活に生かされるのか、大いに疑問がわいてくる。
これまで重点はロケットや衛星の技術開発に置かれてきた。基本方針は、それを利用重視へと変えるという。宇宙開発の将来を見据え、産業として育てようとするなら当然のことだ。
各省庁の縦割りで宙に浮きかけていた気象衛星ひまわりの後継機づくりについて、政府の責任だとはっきりさせたことも、重要な一歩だ。
問題は、日本の宇宙開発がその軸足を軍事の分野に大きく移そうとしていることである。
宇宙基本法は軍事衛星など安全保障目的の宇宙利用に初めて道を開いた。今回の基本方針も、重点分野として国民生活の向上に次ぎ、安全保障を挙げた。産業界も安定した需要が見込めるとしてこの分野の拡大を期待する。
戦略本部は、弾道ミサイルの発射を探知する「早期警戒衛星」の導入などを検討するという。だが安全保障の問題に関しては、宇宙計画が先走っていい話ではない。そもそも、日本が自前の早期警戒衛星を打ち上げるかどうかは、防衛計画の中では何も決まってはいないのだ。
しかも防衛機密のベールに包まれると、コスト評価が甘くなりがちだ。産業として競争の中で技術を鍛え育てていくうえでもマイナスになる。
そこで気になるのは、官民共同開発の中型ロケットGXの扱いだ。開発が難航し費用が大きく膨らんでいるが、自民党の一部が続行を強く主張してきた。戦略本部は技術や費用の検討がなお必要だとして判断を先送りしつつ、安全保障目的のロケットと位置づけ、開発を続ける可能性も残している。
河村官房長官は「宇宙予算を5年で2倍に」と言うが、開発の可能性も需要予測もはっきりしないものを安保の名の下に官需で救うというのでは、このご時世に国民の支持は得られまい。
宇宙開発に政府の役割が重要なのは間違いないが、官需への依存を減らしていくことこそが産業育成の面では大事なはずだ。基本方針は、宇宙分野以外からも広く知恵を求めてすそ野を広げることを大きな課題としている。この点からも、できるだけ民生分野で技術を磨くことが得策だろう。
産官学の壁を越え、斬新な発想で日本ならではの技術を育て、利用を広げる態勢づくりこそが必要だ。