田母神俊雄前航空幕僚長が政府見解に反する歴史認識を懸賞論文に発表した問題で、防衛省は再発防止に向けた報告書を官邸の「防衛省改革有識者会議」に提出したが、核心への踏み込みを欠いた不十分な内容との印象は否めない。
論文は「わが国が侵略国家だったというのは、まさにぬれぎぬ」などと主張した。日中戦争について「わが国は〓介石に引きずり込まれた被害者」とし、太平洋戦争の開戦も米国のわなだったという。日本の植民地支配と侵略を認め、謝罪を表明した一九九五年の村山富市元首相の談話を踏襲する政府見解を真っ向から否定するものだ。政府の憲法解釈で禁止されている集団的自衛権行使の容認なども事実上求めている。
思想信条は自由だが、空自の最高幹部としては不適切で、シビリアンコントロール(文民統制)の根幹を揺るがしかねない。同じ懸賞論文には空自から九十人を超える自衛官が応募していた。田母神氏は、これまでにも空自内で同様の執筆や発言を繰り返してきた。統合幕僚学校長時代には「歴史観・国家観」の講座を新設し、歴史観の近い講師を招いたとされる。なぜ、問題の人物を最高幹部にしたのか。田母神氏の影響が空自内に広まっていないか。知りたいことは多かったが、報告書は肩透かしといわざるを得ない。
田母神論文について報告書は「防衛省・自衛隊に対する内外の信頼を傷付け、文民統制面からも適切でない」と重く受け止めていることを強調した。自衛官教育の見直しや、対外的な意見表明の手続きの明確化などの再発防止策を盛り込んだ。
しかし、問題の主因については「空幕長としての自覚が不十分だった」とするにとどまった。懸賞論文への集団応募で、田母神氏の関与は確認できなかったという。侵略戦争を美化する歴史観が空自内に広まっているかの調査も不十分で、任命責任にも触れていない。
懸賞論文への投稿を呼びかける空自内の文書には「この懸賞論文は日ごろ指導している正しい歴史認識に基づく歴史教育に通じる」とあるのに合点がいかない。田母神氏の個人的な問題として早く幕引きしたい防衛省の意図がうかがえる。
防衛省は相次ぐ不祥事を受け、抜本的な省改革が迫られている。中でも文民統制に関する問題は基本である。問題点をしっかり検証し、改善策を示さなければならない。あらためて政府や防衛省の姿勢が問われる。
〓は「くさかんむり」の下に「將」
十月から来年三月までの間に失業したか、失業が決まっている派遣社員ら非正規労働者が八万五千人を超えたことが、厚生労働省の全国調査で分かった。
リストラされた非正規労働者は十一月の調査時点から一気に約五万五千人も増えている。海外需要の落ち込みと円高も加わり、自動車など輸出型製造業の業績が悪化して、雇用調整が急速に進んでいる実態を裏付ける結果といえよう。
都道府県別では自動車産業の立地する愛知県が最多の一万五百九人で、長野、福島県と続く。岡山県も全国七位と深刻だ。月別では、十二月に失業する人が約三万四千人で最も多い。派遣や契約社員の契約期限と重なり、企業が再契約しない「雇い止め」を多発していることをうかがわせる。
非正規労働者は、全労働者の三分の一を占めるまでに増えているが、不況になると真っ先に切られる弱い立場だ。経営のため安易に削減する企業姿勢には批判が集まっている。
来春就職する大学や高校の新卒者に対する内定取り消しも増加し、七百六十九人に上った。失業者が増えれば社会は不安となる。企業は責任を自覚し、雇用の維持に努力しなければならない。
失業する八万五千人のうち、会社の寮から退去を迫られるなどで住居を失う人は二千百五十七人に上る。再就職が決まった人は二千二十六人とほんのわずかにすぎない。
政府は住居確保策や失業給付の日数延長などの対策を決めたが、職を失う労働者の不安を和らげるには力不足だ。
人手不足が続く介護・医療現場や環境関連産業など、有望な職場はあるはずだ。受け皿づくりが急がれる。新たな雇用の創出に知恵を絞るべきだ。
(2008年12月27日掲載)