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特集ワイド:森喜朗元首相、大いに政局を語る 「大連立の夢」いまだついえず

 永田町のキングメーカーが文字通りの師走らしい。元首相の森喜朗さんである。なにせ首相に推した麻生太郎さんの人気がさっぱり、就任3カ月なのに自民党内からも「反麻生」の声しきりで。同じく支持率低迷に悩んだ「先輩」の思いやいかに? 忙しすぎて、ランチを食べながらのインタビュー。【鈴木琢磨】

 ◇ふるさとの味覚前に本音…

 すっかりクリスマスの装いの東京・銀座、行き交う人の顔は100年に一度といわれる経済危機、不況を感じさせない。ただ救世軍の社会鍋が寒風に揺れるのみ。そのすぐそばに森さん行きつけの加賀料理の「大志満(おおしま)」はある。

 「郷里の先輩がつくられた店で、たまに来るんだよ」

 カウンターに座るや、あれある?と常連っぽく板さんに注文、出てきたのは寒ブリだった。久しぶりに口にする脂ののった刺し身に目を細めつつも、どこか浮かぬ顔である。最新の世論調査の麻生内閣支持率のせいかもしれない。毎日新聞は21%、時事通信にいたっては16・7%にまで急落、マスコミは「森政権」に似てきたと書き立てる。

 「支持率? 私なんか、ああ、またやってるなという感じだった。そりゃ毎日のようにテレビで、この酒はまずい、この酒はまずい、と繰り返されたらどうなる? みのもんたさんから古舘伊知郎さんまで。麻生さん、やせた。ずいぶんね。この間、ある式典で隣に座った麻生さんの太ももを見て驚いた。私の3分の1くらい。疲れてるんだなあと思った。やった人間しかわからない。2度ばかり電話してね。右顧左眄(うこさべん)せず得意の経済で持論を通し、地方を大切に、とアドバイスした」

     ■

 好物の甘エビをしゃぶっても浮かぬ顔が消えないのは年の瀬の自民党“幕末”ドラマが気に入らぬせいらしい。たとえば、「反麻生」の急先鋒(せんぽう)、塩崎恭久元官房長官は勉強会のあいさつで党内の締め付けに対し「安政の大獄」を引き合いに出してこう述べた。「井伊(直弼)大老、老中が時の幕府にいろいろ注文をつけた人たちを弾圧した。結果、幕府が倒れる時期を早めた」

 「ハハハ。『篤姫』は面白かったけどなあ。安政の大獄なんてこじつけだ、新聞の見出しになることをわざと口にするんだな。マスコミに出たいんだ。塩崎君のようなハーバード出の秀才、官房長官まで経験していながら。そもそも官房長官になったことがどうだったのかなと思うね」

 さらにじわじわ存在感を示しつつあるかつての盟友、中川秀直元幹事長、なんでも近ごろ、坂本龍馬に入れ込んでいるとか。衆院解散までに党内で新しい旗を立てたい、と宣言し、新党も視野に入れているふうである。最近の秘書のブログをのぞけば、カラオケで堀内孝雄さんの「ふたりで竜馬をやろうじゃないか」を熱唱したと書いてあった。

 「へえー、そんな歌、あるの? 彼は、どこでどう仕入れてくるのか、新しい歌をマスターするのが早くてね。勉強家ですよ。いや、政策の勉強もよくやってる。で、二人で龍馬って、もうひとりはだれかね? 竹中平蔵さんかもしれんな。ずっと彼の政策のブレーンだからね」

 そういって、さっぱりしたかぶらずしをつまむ。あくまで淡々としながら、ちょっと皮肉な響き、そこに今日の味方は明日の敵、永田町のドロドロした人間模様が垣間見えた。森さん、いつになく寂しい顔をした。「これ、何かわかる?」。いかにもいわくありげに、わんを勧めてくれた。

 「治部(じぶ)煮っていって、金沢の郷土料理でね。素朴で、うまいんだ。どうしてもこれ、食ってほしくてな」

 わんのふたをあけると、それはカモ肉に名物すだれ麩(ぶ)、それにサトイモ、ナス、シイタケなど野菜の入った煮物だった。とろりとした舌触り、それぞれの素材がうまみを出し、コクのあるカモの風味がひとつにまとめている。ははーん、合点がいった。いまの自民党はてんでんバラバラ、それを憂えているわけか。昔の自民党は治部煮だったんですね。カモを自身になぞらえていたりして。

     ■

 「ちょっとためらわれるけど、安倍(晋三)内閣のころから、政治家が軽くなったと感じてきた。かつての政治家はここの屋号じゃないが、大きな志を抱いて、日の当たらないところで、黙々、仕事をしてね。重みがあった。それがいま、どうですか。派閥に籍だけ置いて、初めから浮気して、裏切って。それが平気なんだね。お友達的つながりでしょ。情がわからない」

 いや、中堅・若手だけじゃない。重鎮の加藤紘一元幹事長まで、自民党の歴史的役割は終わった、と公言してはばからない。たしかに次期衆院選で民主党が勝ち、自民党が下野する可能性まで取りざたされだしている。

 「彼も(テレビに)映りたい族。下野? それは国民が決めることでしょ。民主党と一緒にやりたいなら、そうすりゃいい。私はあくまで自民党が勝ち、信頼を取り戻したい。もう第一線の役員じゃないけどね」

 銀座への道すがら、皇居そば広場の木陰にしゃがみこむホームレスの姿があった。あちらにもこちらにも。このあたりではほとんど目にしなかった。とてつもない年の瀬である。「そうか……。それは気づかなかったなあ。このごろ、しみじみ思うんだよ。市場原理の経済はよかったのかと。アメリカ式じゃなく、まろやか、おだやかな世界をつくらないと、東洋的な世界をね。負け組にも入れない国民を生み出す政治はどうにか直さなきゃいかん、そのために政治のかたちを変えなきゃいかんと考えているんだよ」

 それが、ひとたびは夢と消えた小沢一郎代表率いる民主党との大連立を意味するのかしら? 森さん、やや間があって、言った。「そう。やっぱりねじれ状況は打破しないと。幸い、大連立は小沢君がもちかけたものだから。福田(康夫)君は2回、け飛ばしたんだけど。橋渡しをした私の感触では、あのときの雰囲気は小沢君のほうが急いでいた。その理由も聞いた。まるでゲームをやっているみたいな政治がいいわけない。国民が一番迷惑してるでしょ」

 ずずっ、ずずっ。ぎゅっと目を閉じ、あたたかい治部煮の汁をすする森さん、しばしふるさと、そして自民党再生に思いをはせているかのようだった。

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毎日新聞 2008年12月24日 東京夕刊

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