◎北陸新幹線予算 金沢開業が完全に固まった
来年度政府予算案に盛り込まれた北陸新幹線の建設事業費は、金沢―福井の着工調整費
もさることながら、長野―金沢に前年度比二百八十七億円増の千百九十三億円が配分されたことに大きな意味がある。公共事業費の抑制傾向が依然として続く中で、政府が長野―金沢に過去最高の事業費を計上したのは、政府・与党申し合わせに示されている目標通り、二〇一四年度に金沢まで完成させるという強い決意の表れと言えよう。金沢開業が、予算の裏付けを得て完全に固まったことを喜びたい。
ここ数年、長野―金沢への事業費配分が微増の域を出なかったのは、完成時期が近い東
北新幹線八戸―新青森、九州新幹線博多―新八代に重点的に予算が投じられていたからである。だが、一〇年十二月の開業が決まった八戸―新青森は既に工事のピークを過ぎ、一〇年度末の完成を目指している博多―新八代も早晩、最も事業費がかかる時期を終える。今度は長野―金沢が最優先で予算をもらう番がめぐってきたのである。来年度の北陸への大幅増額配分は、それを如実に物語っている。
来年度、石川県内では金沢―白山総合車両基地に加えて車両基地の工事も始まり、富山
県西部でも高架橋の工事が本格化する見通しである。徐々に形をなしていく構造物を目にする機会が増えるにつれて、県民の開業への期待も高まるだろう。それに応えるべく、両県は「二〇一四年」対策のギアをさらに一段上げてもらいたい。
言うまでもなく、事業費の配分が増えれば増えるほど、地元負担も大きくなる。両県に
はなお一層の無駄遣い削減の努力も求めておきたい。
金沢―福井については、来年中の認可、着工への道筋がついたとはいえ、肝心の財源論
議は未決着のままであり、不透明な要素も残る。予算案の中で着工調整費という耳慣れない言葉がいきなり登場したのが気掛かりだ。何度も時の政治の波にほんろうされ、「政治新幹線」とやゆされてきた整備新幹線の歴史を思えば、まだもろ手を挙げて喜ぶわけにもいかないだろう。
◎海自ソマリア派遣 課題多い海上警備行動
ソマリア周辺海域で続発する海賊被害を防ぐため、麻生太郎首相は自衛隊法に基づく海
上警備行動として、海上自衛隊艦を派遣する意向を示した。国連が求める海賊対策を自衛隊が効果的に行うには、新たな法整備が必要と考えるが、来年の通常国会での成立は困難視されている。このため自衛隊による海賊対策を現行法で行うとなれば、海上警備行動の発令しかなく、麻生首相の判断は間違いとは言えまい。
ただ、隊員らの安全を確保する武器使用の制約など課題は多い。海上警備行動は「日本
国民の生命または財産」を守るのが目的のため、海自艦船はたとえ外国船が海賊に襲撃される場にあっても座視するほかなく、国際的な協調行動が要請される中、結果として「一国主義」のそしりを受けかねない悩ましさも内包している。
海賊対策に当たる自衛隊員の武器使用について、政府は警察官職務執行法(警職法)の
範囲内で認められると説明している。警職法に基づく武器使用は正当防衛や緊急避難などに限られ、私的集団の海賊に対する武器使用は武力行使に当たらない。従って、海外での武力行使を禁じた憲法九条にも違反しないということになる。
現行法の解釈としてその通りかもしれない。が、ソマリア海域の海賊はロケット砲など
で武装し、組織化されているという。戦闘状態が拡大した場合、警職法の範囲内の武器使用で船員や自衛隊員の安全を守れるか懸念が残る。政府が進めている「海賊対策新法」の法案づくりでも、武器使用は警職法の範囲内とされているようだが、武器使用基準についてさらに吟味が必要ではないか。
国連安保理は海賊制圧のため、各国がソマリアの領土・領空にも進入するのを認めた。
国家主権を超える措置は本来認められるものではない。しかし、ソマリアが国家の体をなさず、海賊を取り締まる能力がないとなれば、国際社会が協力して対応するほかない。スエズ運河に通じる海上交通路の安全確保は日本にとってきわめて重要であり、新法の整備をあらためて求めておきたい。