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社説:介護報酬引き上げ 賃上げ最優先し人材確保を

 介護サービスの価格を意味する介護報酬が来年4月から3%引き上げられる。00年度から介護保険制度が始まって以来、初めてプラス改定となる。

 改定の最大の狙いは介護従事者の人材確保と処遇改善だ。介護分野では過酷な労働に見合う賃金が支払われない現状が放置されてきた。低賃金などを理由に3年以内に75%が離職しており他産業と比べて離職率が高い。毎日新聞は処遇の改善による人材不足対策の必要性を主張してきた。

 高齢化によって介護のニーズは今後ますます高まっていく。その一方で、介護を支える人材不足が一層深刻になっている。今回の報酬改定で、介護職員の賃上げが実現することで離職者が減り、同時に人材確保が進むことを強く望みたい。

 報酬改定は夜勤業務など負担の大きな業務のサービス単価を引き上げること、介護福祉士などの有資格者の割合が高い施設の評価を手厚くして介護従事者の定着を促進すること、さらに都市部と地方によって違う人件費の差を踏まえた見直しを行うこと--の三つが柱となっている。いずれも必要な見直しなのだが、肝心なことは介護報酬の引き上げに見合う質の高いサービスを提供し高齢者や家族に満足してもらうことだ。

 課題もある。介護報酬引き上げの結果、職員の賃金が実際にどれだけ上がるかだ。報酬引き上げ分は介護事業主の収入となり、ここから職員に賃金が支払われる。引き上げ分は約80万人の職員に月2万円の賃金アップとなる計算だが、厚生労働省は「一律アップにはならない」と説明する。介護事業所の規模やサービス内容によって介護報酬の額が異なることや、正職員か非正規職員か、また勤続年数などによっても賃金が違うため、全職員一律に賃上げが行われることはないという。

 実際には、事業主が報酬改定分をどれだけ賃上げに回すかによって、処遇改善の中身は変わる。厚労省は、いくつかの施設を対象に介護報酬改定の結果、賃金がどうなったかを事後的に検証する作業を行う経費を新年度予算案に盛り込んだ。また、介護の業界団体や事業主に処遇改善の取り組みをホームページなどで公表するよう要請する。

 だが、この措置だけで、介護報酬の引き上げ分が職員の賃金アップになっているかの確認は難しい。介護事業者は今回の改定の目的を十分に理解した上で、積極的な処遇改善を行うよう求めたい。今回の改定が職員の賃上げにつながらなければ、人材確保と処遇改善は絵に描いた餅になってしまう。

 介護分野は「雇用の受け皿」として期待があり、その可能性も大きい。今回の改定が呼び水となって求職者が介護分野に進出することになれば、介護事業の活性化にもつながる。

毎日新聞 2008年12月27日 東京朝刊

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