麻生太郎首相にとって初の臨時国会が閉幕した。衆参両院で与野党の勢力が異なる「ねじれ現象」が続く中、世界的に悪化する景気や雇用環境に迅速に対応したとは言い難い。
今国会は福田康夫前首相の政権投げ出しを受け、九月下旬に始まった。国民の人気が高いとされた後任の麻生首相が、衆院の解散・総選挙にいつ踏み切るかが最大の焦点といえた。
「こんなはずではなかった」というのが現在の麻生首相の偽らざる心境だろう。麻生首相が当初描いていたシナリオは、国民の人気をバックに早急に解散し、有権者の信任を得て本格的な政権を樹立するという図式だったといわれる。
しかし、首相就任直後の世論調査で支持率が芳しくなかった。それで解散の決断を先送りしたようだが、その後、米国発の金融危機が日本の実体経済にも深刻な影響を与え始めたため事態は一変した。
景気・雇用対策の必要性を大義名分に「政局より政策」と解散回避に方向転換した。麻生首相の判断に、多くの国民が理解を示したのは間違いないだろう。ただ、この判断に基づく対応は首をかしげざるを得ない。
金融機関への予防的な公的資金投入を可能にする改正金融機能強化法は衆院で再可決して成立させたが、問題は二〇〇八年度の第二次補正予算案である。緊急の景気・雇用対策を盛り込みながら、麻生首相は今国会への提出を見送った。
「百年に一度の経済危機」と何度も繰り返し、あらゆる手だてを講じることが自分の責務と力説した。それならなぜ、第二次補正予算案を早急に提出しなかったのか。
評判の良くない定額給付金が野党の攻撃材料にされ、解散の糸口を与えるのを恐れたとされる。国民生活より政局を優先したと見られても仕方あるまい。
一方で野党の党利党略も目立った。特に国会最終盤で民主など野党三党が提出した雇用対策四法案は、強引な審議の進め方に与党が反発し廃案となった。政府が目指す雇用対策と共通点も多く、互いに歩み寄れば修正合意できたはずである。
論戦の舞台は年明けの通常国会に移る。第二次補正予算案と〇九年度政府予算案が最大の争点となる。景気・雇用対策は待ったなしの状況だ。今国会の教訓を生かし、与野党で建設的な妥協の道を探る意思が求められる。それが無理なら政治空白状態が続くだけで、早期に国民の信を問うべきだろう。
政府は、経済状況の好転を前提に消費税率引き上げの時期を二〇一一年度と明記した社会保障と税制の中期プログラムを閣議決定した。改革の道筋を〇九年度税制改正法案の付則に盛り込む方針だ。
消費税をめぐっては、麻生太郎首相が三年後の税率引き上げ方針を明言していた。しかし、総選挙をにらみ与党内では公明党を中心に増税時期の明示に反発が強く、〇九年度税制改正大綱でも増税時期は「一〇年代半ばまで」と幅を持たせていた。
結局、経済好転を前提条件とするなど公明党の主張に配慮する形で決着し、麻生首相のメンツも何とか保たれた。しかし「好転」の定義はあいまいで、玉虫色の合意といえよう。
中期プログラムは「社会保障費は消費税を主な財源として確保」するとしている。基礎年金の国庫負担引き上げの財源を特別会計の余剰金で手当てするのは一〇年度までの二年間だ。「財政規律」をぎりぎり維持するには、増税の具体的な時期を示す必要があったのだろう。
将来の不安を和らげる社会保障費の財源をどう確保し、税制全体の中でどう見直していくのか、開かれた議論が必要だ。
ただ、増税実現へのハードルは高いと言わざるを得ない。「ねじれ国会」で、税制改正法案が成立するかどうか不透明だ。衆院選を控え与党内にも「増税論が先行しすぎ」との異論がくすぶる。増税の前提とされる経済成長の達成も容易ではなく、重い足かせとなろう。
消費税引き上げの論議は、選挙への争点化を嫌って歴代政権が避け続けてきた。何のために、どれだけ増税するのか。医療や介護など社会保障のあるべき姿を踏まえた上で、中身の議論を尽くさねば国民の納得は得られまい。
(2008年12月26日掲載)