医療経営情報Weekly2006/2/13 bO035号 |
東日本税理士法人 税理士 田村 信勝 |
医療機関における消費税損税問題とは? 第1回
平成15年の税制改正により新たに消費税の納税義務者となった医療機関が多い。今まで消費税の納税義務がなかった医療機関の関係者は、消費税の損税問題についても理解を深めていただく必要がある。消費税の税率アップが迫ってきているが、税率アップが医療機関の経営に多大な影響を与えることになるので、医療機関における消費税の損税問題について解説して行く。
消費税の仕組み
最初に、消費税の仕組みがどのようになっているのか確認しておく。消費税の最大の特徴は「預り金」だということである。医療機関が患者から預かって国に納付することになる。最終的に負担するのは患者であるが、納税するのは、製薬メーカー、医薬品商社、医療機関と何段階にも分かれている。消費税は、取引のすべての段階にわたって分散して納税されることになる。
図1を参考にして、消費税の仕組みを解説していく。なお、医療機関においては「売上」ではなく「収入」という文言を用いるが、消費税法上は「売上」という文言を用いているため、文中も「売上」と表現することにご留意頂きたい。
まず、製薬メーカーは医薬品商社へ21万円(20万円+20万円×5%)で診療材料を販売することとする。税金分1万円は、製薬メーカーにとっては医薬品商社から預かったものであり、売上ではない。よって、製薬メーカーは預った税金分1万円を納付することになる。
次に、医薬品商社は医療機関へ31.5万円(30万円+30万円×5%)で診療材料を販売することとする。税金分1.5万円は、医薬品商社にとっては医療機関から預かったものになるので、売上とはならない。医薬品商社も預った消費税等を納付することになるが、このときに納税する金額は預かった1.5万円ではない。医薬品商社は製薬メーカーから仕入れたときに1万円の消費税等を支払っているので、医薬品商社が支払った消費税等は、預かった消費税等から差し引くことになる。よって、1.5万円−1万円=0.5万円を納付することとなる。この医薬品商社が支払った消費税等を差し引くことを「仕入税額控除」という。
更に、医療機関は患者へ42万円(40万円+40万円×5%)で診療材料を販売することとする。医療機関においても、医薬品商社と同様の計算をするので、預かった消費税等から支払った消費税等を差し引く。よって、2万円−1.5万円=0.5万円を納付することとなる。
製薬メーカーが1万円、医薬品商社が0.5万円、医療機関が0.5万円、合計で2万円が国(税務署)に納付される。この2万円は、最終消費者である患者が医療機関に支払った2万円と一致することになる。
図1は、診療が自由診療であり消費税が課税されるのを前提としている。しかし医療機関の場合には、社会保険診療等の消費税が非課税となる収入が多いので、上記の例よりも図2のケースのほうが多い。
図2の場合には、患者から預かった消費税がないのに、医薬品商社には消費税を支払っているため、支払損が生じてしまう。解説すると、社会保険診療等による収入は非課税となるため、患者からは消費税を預かっていない。しかし、医薬品商社には診療材料に対する消費税15,000円を支払っているため、預かった消費税より支払った消費税のほうが多くなってしまい、支払損が生じてしまう。支払った消費税15,000円が税務署から還付になれば、支払損とはならないが、単純にそうはいかない。
ここが医療機関の損税だ!
預かった消費税から差し引く仕入れに係る消費税額については、課税売上割合を考慮する必要がある。課税売上割合とは簡単に言えば、総売上のうちに占める消費税が課税となる売上の割合のことである。つまり、課税となる収入に対応する分しか仕入れに係る消費税額は控除できないのである。消費税を計算する上で、診療材料の仕入れが非課税診療と自由診療に共通するものであれば、その診療材料の仕入高に対する消費税額に課税売上割合を乗じる。収入が、社会保険診療等しかなかった場合には、課税売上割合が0%になるので、仕入れに係る消費税額は一切控除出来ない。その場合には、還付を受けることができず15,000円の支払損が生じてしまう。
実際には、図1のように自由診療などの消費税が課される収入もある。仮に、課税売上割合が10%であれば、15,000円の10%である1,500円しか控除出来ない。支払った消費税は15,000円であるのに、控除出来る消費税は1,500円なので、13,500円は最終消費者である患者ではなく医療機関で負担することになってしまう。
消費税の納税義務がないため、預った消費税を国に納めなくてよいことを益税と呼ぶのに対し、医療機関は消費税で損をしているということで、このことを消費税の損税と呼んでいる。
将来、消費税率がアップした場合に、診療報酬の改定が横ばいのままであれば、医薬品商社に支払う消費税が増え、更に医療機関の負担が増加することになるのである。
このように、医療に対する消費税は非課税とされているにも係らず、国には消費税が納税されるという現象が生じている。これは、図2のように患者は消費税を負担する必要はないが、医療機関が診療材料購入時に消費税を支払っているからである。医療に対する消費税を本当に非課税とするのであれば、国への納税も生じないような仕組みを作るべきではないだろうか。厚生労働省は医療法人制度改革を進めているが、消費税の損税問題こそ全ての医療機関にとって重大事項であり、解決策を見出さなければならない問題である。
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