以下は、社会思想史家の櫻井智志さんの「天皇制を廃止して天皇家に基本的人権を」
(http://unitingforpeace.seesaa.net/article/111589146.html)
というご論攷への私の応答です。
櫻井さん
古代、中世、近世、近代と続く天皇制のコスモロジーの読解の問題はさておき、象徴天皇制の問題を民主主義の問題として考えようとするとき、日本国憲法第1章に規定される象徴天皇制は、同憲法前文に規定される国民主権、同第14条に規定される法の下の平等とは明らかに異質の概念です。象徴天皇制と民主主義の概念は相容れません。櫻井さんがご自身を「天皇制廃止論者」と位置づけるとき、そうした判断があるものと思います。そうだとして、このご判断に私は同意します。
しかし、櫻井さんがご自身を「かつ天皇家賛美論者」である、と位置づけようとするあなたの一種の矜持のようなものには私は同意できません。櫻井さんのそうした自矜の根底には「象徴天皇制という憲法上の規定は、広く国民になじんでいる」という現状分析とご判断がおそらくあるのでしょう。たしかに象徴天皇制に関する各種の世論調査を見ると象徴天皇制支持は多数派を占め、一見「象徴天皇制は広く国民になじんでいる」かのように見えます(たとえば1986年の朝日新聞社の全国世論調査では回答者の84パーセントが象徴天皇制を支持しています)。
しかし、私は、こうしたマスメディアの世論調査は、社会学でいうところの擬似環境(pseudo-environment)、人々が各自の頭の中に描いている環境についてのイメージ、マスメディアによって操作されやすいステレオタイプ化された環境像の反映にすぎず、そういう意味で形骸化された「世論」というべきものであって、真の現実環境(real-environment)を反映したものとは必ずしもいえないように思います(W.リップマン『世論』)。
天皇誕生の日、私は天皇問題を考えるある市民集会に参加したのですが、ここで私の友人の50代の女性が次のように語っていたのが印象的でした。この女性は私の住まう県下でも最も高齢化率の高い村落の在住者なのですが、この女性が言うには、ある日、その村落の老婆3人と山に野良仕事に出かけたとき、その老婆たちは、敗戦のとき進駐軍の捜索を恐れて各自の家の居間に飾っていた天皇の御真影をこの山で焼き捨てたことを思い出したように語ったというのです。
仮定の話ですが、戦前に絶対天皇制に関する世論調査があったとして(そんな不敬があるはずもありませんが)、その支持率はおそらく100パーセントに上るでしょうし、上らざるをえなかったでしょう。しかし、「皇祖皇宗」の天皇家も、庶民にとっては所詮はこの程度の存在でしかなかった、とはその女性の言なのでした。
「象徴天皇制という憲法上の規定は、広く国民になじんでいる」というけれども、いまももしかしたら同じようなことはいえないでしょうか?
私は敗戦3年後に書かれた坂口安吾の次のような至言に満腔の賛意を感じます。
「人間の値打というものは、実質的なものだ。天皇という虚名によって、人間そのものゝ真実の尊敬をうけることはできないもので、天皇陛下が生物学者として真に偉大であるならば、生物学者として偉大なのであり、天皇ということゝは関係がない。況(いわ)んや、生物学者としてさのみではないが、天皇の素人芸としては、というような意味の過大評価は、哀れ、まずしい話である。/天皇というものに、実際の尊厳のあるべきイワレはないのである。日本に残る一番古い家柄、そして過去に日本を支配した名門である、ということの外に意味はなく、古い家柄といっても系譜的に辿りうるというだけで、人間誰しも、たゞ系図をもたないだけで、類人猿からこのかた、みんな同じだけ古い家柄であることは論をまたない」(『天皇陛下にさゝぐる言葉』1948年)
http://www.aozora.gr.jp/cards/001095/files/42818_26242.html
by 東本高志
2008年12月26日
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