文部科学省は高校の学習指導要領改定案を公表した。生徒の多様な学力に応じ、基礎知識の習得と活用力を育てるのが狙いだ。数学・理科は二〇一二年度入学生から、その他の教科は一三年度入学生から実施する。
学力低下が指摘され、授業時間を増やすなど「ゆとり教育」から大きな転換を図った小中学校の新指導要領と比べると変化は小幅だが、生徒の学力底上げに配慮したのが特徴である。
注目は学校の裁量の拡大で、義務教育の内容を復習する授業を可能とすることを明文化している。高校の授業について行けない生徒が増えている現状に配慮したものだ。一部の学校で行われている現状の追認とも言えるが、指導要領に明記することで、学校での取り組みを促進する効果があろう。授業時間数についても現行の週三十時間(一時間は五十分)を維持し、必要があれば増やせるとした。
教科では科目が再編された。数学、国語、外国語(英語)では、これまでの選択必修制をやめ、全員が学ぶ共通必修科目を設け基礎学力を重視した。
学習意欲向上にも力を入れ、数学では身近な事象を数学的に分析する「数学活用」を新設。ゲームやパズル、コンピューターなどを活用して数理的な判断力を養成する。
理科では、「理科課題研究」を新設し、大学や研究機関などと連携し、ロボット工学やナノテクノロジーなど先端科学に触れるとした。「理数離れ」が指摘されるだけに重要だ。
英語では会話や読み書きの力を重視し、「英語での授業が基本とする」と明記された。生徒の英語でのコミュニケーション能力を高めるとしている。学ぶ英単語数も中国や韓国にならい大幅に増やす。
数学、理科の新科目や英語による授業などが狙い通りに実施できるのか、現場からは戸惑う声も上がっている。学校や教員の指導力が問われよう。国は教材研究や教師の研修に力を入れる必要がある。
問題は高校の学習内容が大学入試に左右されている現実だ。二年前に全国の高校で発覚した未履修問題では、学習指導要領で必修とされながら大学受験の科目に選ぶ生徒が少ない世界史の授業を選択科目の日本史などにあてていた。
98%と高い進学率の中で高校は偏差値による格差が広がる。高校教育の問題を学習指導要領改定だけで解決することはできない。大学入試についても広く国民的に論議する必要がある。
二〇〇九年度の政府予算案が決まった。麻生太郎首相が取り組んだ初の当初予算案で、次期通常国会に提出する。
今回の予算編成作業は、急激に経済環境が悪化する中で行われた。景気や雇用対策に加え、問題化した医師不足への対応などに重点を置き、一般会計総額は過去最高となる八十八兆五千四百八十億円に膨らんだ。前年度当初予算に比べ6・6%も増加した。
「百年に一度」とさえいわれる世界的な景気後退のさなかだけに、思い切った財政出動はやむを得ない面があろう。問題はその中身だ。
注目されたのは、先日内示された財務省原案後の措置である。事務レベルと閣僚らで調整財源を分け合う従来型の復活折衝に代わり、麻生首相が仕切る総額三千三百三十億円の重要課題推進枠がどう配分されるかに関心が集まった。
麻生首相の政治理念や戦略性が明確になるとみられた。結果は推進枠の三分の二以上を医師不足対策などの「生活防衛」と、地域活性化など「地方の底力」の二つの名目に回した。
首相主導で国民の不安解消を図る姿勢をアピールしたのだろう。だが、産科医への手当創設、飼料用米や小麦の増産による水田の有効活用策など柱の部分は、夏の概算要求時点で既に目玉と位置付けられていた。
首相主導を演出するため、あらかじめ目玉事業を外して取っておいただけ、という冷ややかな声も聞かれる。
景気が悪化する中、「経済の麻生」を看板に掲げる首相の力量が問われたが、期待外れの感は否めない。予算案全体でも経済の抜本強化に向けた中長期的な戦略は見えず、首相の看板は早くも色あせたと言わざるを得ない。
(2008年12月25日掲載)