入るのに時間がかかる。そんな喫茶店は初めてだ。息を整える。気持ちをしずめる。頭を白く綺麗にしておく。邪念がきえますように。そしてこの荷物を持って3階まで上がれるかを考える。ローレンスを目の前にして少し緊張した。ここに辿りつくまでにもいろいろあったから、かもしれないな。
遠くから見えるローレンスも圧巻だ。町の中にありながらそこだけ空気が明かに違う。
明らかに。
3階にある為に階段を登る。まずはこんな感じ。
二階の踊り場に付く。ここから物語がはじまりそう。ここの二階の横部分は他の店舗になっているのだが長続きしないみたい。それは明らかに上からの霊気によるものと考えられる。明らかに。
階段途中。この隙間から下界を見下ろすと当たり前の町並みが逆に異様に見える。
もうすでに建物の中に入った時点で頭の中の錆びたネジが逆回転に巻かれている。
登るに連れこんなオブジェがお出迎え。
入り口の辺り。古い古いドアをあけるとそこはセピア色の風景だった。私のコンタクトの調子が悪いわけではない。明らかにセピアな部屋がそこにあり、時代錯誤に陥る。過去に戻りたくない人はここにはこないほうが良いと思われ。
入り口入ってすぐ右にあるトイレのドア。ドアア。
「イラッシャイマセ」とその人は言った。痩せた女性。意外にもパンツ姿でサスペンダーをしている。しかし可愛らしいポップさはない。サスペンダーの意味が違う。
私が「この荷物はどこにおいたらいいですか?」(ツアー中だった為すごい荷物)と聞くと「それはあなたがどこにお座りになるかでお決まりになることでございます。あなたはどちらにお座りになられますか?」と言うので「ええと、、」と言うと
「まず。こちらが五木寛之さんがいつもお座りになられる席」
といってここを指さす。
「それからあちらの奥の方にご予約席が。ご予約席と申しましても料金はいただきません。今日は空いているのでどこでもどうぞ」とおっしゃった。
考えた末、せっかくなので五木寛之の席はもうわかった、だからまだ見ていない席にしよう、と思い「じゃ、奥で」といって案内していただいた。
ここが案内していただいた予約席。個室のようになっている。子供だったら泣き出しそうになるくらい空気が張りつめている部屋だ。こんな喫茶店私はじめて。
ここが個室の隣の奥の席。
これがメニュー。
メニューを持ってきてくれて一言
「この中で出来ないメニューが半分はあります。」と、当たり前な感じで言った。
なんだそりゃ。そそか、、確立は半分か、、確立は変動するのかな、、と思いつつ。
「じゃあ、、ピーナツミルク(多分そんな名前だった、、)ありますか?」と恐縮しながら尋ねたらOKだった待つこと15ふんこんなん出てきました。
残念なのは器かな。建物も人もこんなんなのにどうしてカップと付け合わせがこれなのだろうか。あまりのバランスの悪さに驚くところだが、すでに私の頭の回路は逆回りをしているのでなにがおかしいのかその場ではよくわからない。
他の席では膝にブランケットをのせたご老人が一人、あと、ものすごお金持ちな「まるで企業の役員」みたいなおじさまとその女性で3人でいろんな談義をされていた。
金沢の一般的なオトーサンなんかはスポーツ新聞抱えては絶対にここには入れないんだろうな。そんな意味での敷居は超〜〜〜〜高い。
ドライフラワーも「カントリーなグッズ」なんて陳腐なキャッチコピーはここではあっという間に吹き飛んでしまう。多分ここにあるものは、日光があたったら灰になってしまうのかもしれない。人間もみな。
ローレンスに入る前に不思議な体験をした。
ちょうどローレンスが見えたくらいの距離にある大きな交差点で信号待ちをしていた。
なにか強力な視線を感じたので左方向をみるとおばあさんくらいの女性がじいっと私を見ていた。距離にして5メートルくらいのところから。
その女性は顔つきから日本の方ではないと見られ、どちらかというとアメリカの先住民族の方のような顔つきだった。背が低く日に焼けており髪は黒く。金沢にいてそんな方は珍しいというか目立つ。その人がものすごい視線で私をみているのだ。間違いだろうと思いたかった。が。私だわ、やっぱり。一瞬たりとも目を離さずに私を凝視していた。私も基本的には見られたらその意味がはっきりするまで見返すほうだが、今回はちょっと状況が違いすぎる。さすがに気味が悪くなって目を反らそうと思った時に、今度横からもう一人女性が表れた。感じから娘だろうと思った。そっくりな体系にそっくりな顔つき。そしてまた彼女もまた同じように会話をそこで交わすこともなく私を凝視。二人並んで。だ、だれ?な、なに?
信号は案外長い。というか長くかんじた。目の前にはローレンス。初めての金沢の暑い日差し。肩に重く食い込むアコーディオン。もし、ここで来られたら逃げることはまず無理だな。いや、逃げるってなんだ?どうして逃げるんだ?一度前に戻した顔を再び左に戻してみる。まだみてる。ものすごい視線で。どうしようか?
思いきって近付いてみようか?案外なにかのセールスかもしれんし。ほら私旅行者やから。なんかお金とかないし。はて、まてよ。なんか私に見えてる?何か憑いてる?いろんなものが。死相??
思いが錯綜しはじめたころ信号が青に変わった。
歩き出してしばらくしてから振り返るとやっぱりまだ私をみていた。あの視線のまま。
帰りにまた同じところにいたらどうしよう。
そう思いながらお店をでたら二人の姿はもうそこには無かった。