建て替えに向けて「さよなら公演」が始まる来年1月の歌舞伎座昼の部で、松本幸四郎が「俊寛」の俊寛を演じる。
平家全盛の世に、陰謀が露見して島流しになった俊寛は、共に流罪となった康頼、成経と赦免船を待ちこがれていた。ついに船が来るが、成経の恋人で海女の千鳥は乗船を許されない。俊寛は上使の瀬尾を切り、自分の身代わりに千鳥を乗船させることにし、単身、島に残る。
幸四郎は「幕切れで岩の上から小さくなっていく船を見送る俊寛の心情と、歌舞伎座に別れを告げる気持ちが重なり、いつにも増して万感胸に迫るのではないかと思います」
俊寛は恋しい妻が都で死んだと知らされる。「それで自分の命を若い恋人たちに託そうとする。自己犠牲です」
瀬尾に命じられ、いったん船倉に入った俊寛が、その間に何を考えていたかが気になるという。「都へ帰りたいという思いと、身代わりになろうという気持ちとの葛藤(かっとう)はすごかったに違いない」
俊寛を思う時に感じるのは青白い炎だ。「孤島に残された人間の魂が燃える色です」
もう一役が夜の部「寿曽我対面」の工藤。「初役です。風格がいるし、出てきただけで役になっていなければならない。そこが難しい」
今年は2月に父の白鸚(はくおう)の二十七回忌追善興行を歌舞伎座で行い、10月には奈良の東大寺で「勧進帳」の弁慶の1000回公演を達成するなど、「いろんなことをさせていただき、いい年でした」。現在66歳。「70歳に近づいていきます。一生懸命に楽しみつつ、お客様に感動を与えられるように演じていきたい」
公演は3日から27日まで。問い合わせは03・5565・6000へ。【小玉祥子】
毎日新聞 2008年12月25日 東京夕刊