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第36回 防災科学技術研究所 理事長 岡田義光...
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魂の仕事人 第35回 其の四
貧困の問題は生存の問題 「自己責任」は「死ね」と同義 生きる権利は誰にでもある
恩師の死や生きづらさに苦しむ若者の取材を通して、いじめ・自殺問題から労働問題へとシフトしていった雨宮氏。調査・研究を重ねるうちに、自殺問題とプレカリアート問題は実は地続きだということがわかった。さらにワーキングプアやネットカフェ難民の増加の背景には巨大な力が働いていたことに気がついた。雨宮氏の新たな戦いが始まった。  
作家・活動家 雨宮処凛
 

政財界によって仕組まれていた
ワーキングプアの増加

 

プレカリアート問題の根本の原因について調べていると、ものすごくショッキングな事実に突き当たりました。1995年に日経連(現・経団連)が発表した「新時代の日本的経営」です。財界は、バブル崩壊後の不況対策として、労働者を3つのタイプに分けようと提言していたのです。

ひとつ目は、将来会社の経営を担う幹部候補人材の「長期蓄積能力活用型」、二つ目が、会社の利益を生み出すスペシャリストの「高度専門能力活用型」、三つ目が安い賃金で使え、経営が悪化したときにすぐ解雇できる雇用の調整弁としての「雇用柔軟型」です。無期限で雇用が保証されているのは正社員の「長期蓄積能力活用型」だけで、あとの2つはいつでもクビが切れる契約社員や派遣労働者です。

目的は総人件費の節約と低コスト化です。そのため、一番安く使え、景気が悪くなったらすぐクビが切れる「雇用柔軟型」を全業界・業種で増やすために労働法制が規制緩和されました。それまで違法とされていた製造業への派遣が可能になった結果、使い捨ての激安労働力である若い日雇い派遣労働者を大量に生み出しました。こういう人たちを食い物にしているのが、不法行為が明るみに出てマスコミを騒がしている大手派遣会社や消費者金融などで、我々は貧困ビジネスと呼んでいます。

こういった現状は、普通の人の普通の生活が破壊されたという問題でもあるし、雇用の問題でもあるし、産業構造の問題でもあるし、それを推し進めている新自由主義政策の問題でもあるし、グローバル経済の問題でもあるんですよね。だからプレカリアートの問題に関わるようになって、個人的な生きづらさの問題から社会とか世界とかのもっと広くて大きい公の問題にまで意識が一気に広がりました。

ネットカフェ難民に取材して書いた
『生きさせろ』
 

このようにそもそも日雇い派遣労働者に限らず、非正規雇用者が増えたのは、政財界の企みによってなんです。私もフリーター時代には「自分が悪いからフリーターになった」と思っていたし、世間的にもそういうバッシングをよく受けたのですが、実は企業が生き残るために、政財界の人たちによって「フリーターのような人を増やそう」という提言がされていて、私たちの知らないところで勝手に「雇用柔軟型」などと労働者がわけられていた。あの就職難、正社員としてなかなか就職できなかったのも、フリーターになるしかなかったのも、やっぱり私たちだけのせいではなかったんだと。こういうことって明らかにおかしいですよね。これに一番ショックを受けました。

そして強者のために政財界が一体となって行った一連の構造改革、規制緩和の悪影響はすぐに目に見える形で現れました。「新時代の日本的経営」が発表された1995年以降、中小企業はどんどん潰れ、年収200万円以下のワーキングプアは増加し、さらに餓死者の数が急増し始めたんです。

さらに2006年の春くらいから、マンガ喫茶で若い人が料金を払えなくて捕まるという事件がちらほら起き始めました。ネットカフェ難民の出現です。当時はまだ「ネットカフェ難民」という言葉はなかったのですが、捕まったときのその人たちの所持金は10円とか20円で、すごく衝撃を受けました。いったい何が起きているんだと思ってよくよく調べてみると、その背後には、製造業の使い捨ての労働力として若者を使う日雇い派遣の問題とか、嘘ばかり書いている求人情報の問題などがあって、結局それを突き詰めていくと派遣法の改正など、やっぱり政府の強者寄りの政策があった。このネットカフェ難民の出現もプレカリアート問題に取り掛かる大きなきっかけになりました。

日本も国際競争に巻き込まれている限り、非正規雇用の人たちは特に製造業の場合、常に中国やインドなど安い労働力の国と競争させられているので、日本にいながら頑張れば頑張るほど時給は下がるし、労働条件も悪くなるという負のスパイラルの中に入ってしまっていると感じたんです。もはやすべての個人が頑張って何とかなるというレベルの話ではないんですね。

こういう事実を知らないから、現場で働いているワーキングプアやネットカフェ難民たちの多くは、すごく消耗して、使い捨てられて、「こうなったのも自分がダメだからだ」と自分を責めて、心を病んで、そのままホームレスになっちゃったり、自殺してしまったりしている。

こういう惨状を目の当たりにして、実はネオリベラリズム・経済至上主義に基づく政府による、大企業などの強者寄りの制度の改正によって、特に若い人が生きづらく、働きづらい世の中になっているんだから、制度や社会の方を変えていかないと意味がないし、苦しんでいる当事者たちにもこういう事実を知ってもらわないとダメだと思ったんです。知るのと知らないのとではぜんぜん違いますから。知っていればもしかしたら死なずに済むかもしれないので。

そんな思いでネットカフェ難民などのワーキングプアと呼ばれる人たちの取材を始めました。当初は本にするあてなど全くなかったので取材はすべて自費で行いました。ある程度まとまったところで出版社に提案するとOKが出たので形にすることができました。それが『生きさせろ! 難民化する若者たち』という本です。

普通の生活どころか、生きていくことすらままならなくなっている若者たち。その数は年々増え続けている。彼らは今日一日を生き延びることに必死だが、もはや個人の力ではどうすることもできなくなっている。

助かる道は今のところ生活保護しかない
 

今、生存の危機に瀕しているネットカフェ難民がとりあえず助かる道は、法的には生活保護しかありません。非正規雇用は常に失業を前提にしているのに、雇用保険もないし、うつ病になっても休業補償もありません。だから生活保護のことを教えないと生き延びられないんです。しかし若い人はそもそも生活保護を申請するという方法も知りません。

生活保護を受けたら働かなくなるという人がいますが、今ネットカフェ難民の人たちはみんな働いているんですよ。日雇い派遣などで働きながらネットカフェに泊まったり、野宿したりという生活をしているんですが、当然健康を害しやすくなります。でも1回でもカゼを引くと日雇い仕事に行けなくなり、お金がなくなって、ネットカフェにすら泊まれず、どこに助けを求めていいやらわからないので、真っ逆さまにホームレスに転落しちゃうんですよね。そうなると数年以内に餓死や凍死など、野垂れ死にしてしまいます。ホームレスからの社会復帰ってすごく難しいんです。

だったら日雇いなどせずにどこかの会社に就職すればいいという人もいますが、それもなかなかできません。まず会社はバイトでも住所不定の人は採用しません。また、運良く採用になったとしても、お金がなさすぎて最初の給料日まで生きていけないんです。

だからアパートを借りる際の敷金・礼金と最初の給料日までの生活保障さえあれば、ネットカフェ難民から少なくとも普通のフリーターに一瞬で戻れるんです。その予算は多分ひとりあたり50万円ほどで済むはずなんですよね。ホームレスのためのシェルターを作る予算と比べたら、絶対安上がり。本人たちも余計な苦しみを味わわなくてすみますしね。だから住む部屋をなくしたら「ここに行けば部屋を借りられる」みたいな具体的な事業もすごく必要で、行政機関が取り組むべきだと思います。

だけど現状ではネットカフェ難民問題は放置されている状態(※1)なので、まず生活保護で普通の生活を元に取り戻すことが重要だと思います。生活保護を申請すればいいということすら知らない人もたくさんいるので、もっと教育機関が手続き等について教えるべきですよ。ネットカフェとか24時間営業のファーストフード店とか、お金のない若い人たちがたくさん集まるところに「こういうふうにすれば生活保護を受けられます」というチラシなどを置けば全然違うと思います。

※1ネットカフェ難民問題は放置されている状態──東京都は、2008年4月から本格的に若年ホームレス・ネットカフェ難民救済事業に乗り出した。正式名称は「住居喪失不安定就労者サポート事業」で、自力で部屋を借りることが難しい人のために、賃貸借契約支援、敷金・礼金等の費用の貸付などを予定している。雨宮氏始めプレカリアート問題に取り組む人びとの運動の成果だといえる。(詳しくは東京都のWebサイト「住居喪失不安定就労者サポート事業」を参照のこと)

正社員しかまともに生きられない社会はおかしい
 

しかし、部屋を借りることひとつとっても、非正規雇用者にとっては厳しい時代になっています。最近、不動産屋が派遣やフリーターの人になかなか部屋を貸してくれなくなっているという話をよく聞くんです。多くの大家さんが収入の不安定な派遣やフリーターを嫌がっているのですが、そうなるとまともな物件に入れるのは正規の人だけになってしまう。

こんなふうに今、働き方だけじゃなくて、生きていく上でのいろんな条件が正社員と非正社員では違っていて、その格差はますます広がっているように感じます。でも、こういった正社員しかいい賃貸物件に住めなかったり、住宅ローンを組めなかったりする社会は絶対におかしいですよね。

確かに就職氷河期の世代でも、頑張って正社員として就職できた人はいる。しかし、努力してもフリーターになってしまった人の方が圧倒的に多い。頑張ってもどうにもならなかった人を批判するのは間違っていると雨宮氏は言う。

落ちこぼれた人を批判する資格は誰にもない
 

たとえば30代のフリーターがなかなか正社員として採ってもらえないのは、そもそもその人が生まれた年とか社会に出た年の問題で、それは絶対自分のせいじゃないんですよね。たぶんバブルのときに社会に出ていたら全く問題なく正社員として就職できて、普通に暮らしているでしょう。

就職氷河期の時代って、5脚しか椅子がないのに100人で椅子取りゲームをしているような状態なんですよね。そうすると95人はこぼれてしまう。運よく5人の中に入れた人はラッキーですが、そのためにどれだけの人を蹴落としてきたのかを考えると、こぼれ落ちた人たちを批判する資格はないと思うんです。もっとも、私たちは嫌が応にも競争社会の中で生きていかざるを得ない状況なので、結果的に人を蹴落とすのはしょうがないことかもしれません。ですが、実は落ちたのが自分でも不思議ではないし、そしていつ落ちる側に回るかわからないのが今の世の中です。だからみんながそういうふうに想像できればもう少し優しい世の中になると思うんです。

また、「私はこんなに頑張ってフリーターから正社員になったのだから、フリーターがいつまでも甘えてて権利を主張するのはとんでもない」といった意見もあります。そう言いたくなる気持ちもわかりますし、頑張った人が報われる社会であるべきだとも思います。稼ぎたい人はどんどん稼いで、たくさん使っていい暮らしをするというのは全然否定しないんですが、一方でそうしない自由もあるし、そうできない人たちの生存が脅かされる社会であってはならないと思うんです。

貧困の問題って生存の問題なんです。貧困から実際にホームレス化して生存そのものが脅かされているフリーターが私たちの社会に存在しているということをどう考えるか。もちろんまだ東京中が目に見えてスラム化している状態ではありませんが、このままいけばどんどん若年層のホームレスは増えて、普通に道を歩いていても若いホームレスを見かけるような社会になる可能性が高い。

そして貧困から餓死(※2)する人も増えると思います。今はまだ餓死する前に自殺している人が多いので目立ちませんが、ほとんど餓死みたいな自殺も増えているんです。私たちの社会で貧困から餓死してしまう人が少数でも現実にいるということが問題だと思うんです。

※2 餓死──1995年以降餓死者は急増し、毎年約100人が餓死している。2005年までに餓死した人の数は867人にのぼる(厚生労働省・人口動態調査より)。ちなみに餓死者が急増し始めた1995年は経団連が「新時代の日本的経営」を発表した年で、政財界が結託して推し進めた構造改革の影響が出始めた時期と一致する。

そういう社会は誰だって嫌ですよね。ホームレスを生み出さない社会、また万が一ホームレスになっても駆け込み寺のような施設がある社会の方が絶対みんな生きやすいに決まっています。自分に何かあったときもここに行けば助かるという安心感が逆に生産性を高めたりするかもしれないですし。

だからどんなに躓いてもホームレスにならない、餓死しない社会であってほしい。私が求めているのはそれだけなんですよね。

「自己責任」は残酷な言葉
 

現状ではフリーターとかホームレスはダシに使われてますよね。親が子供に「勉強しないとああなっちゃうよ」とか、必死で働いて正社員という地位にしがみついている人が「ああならないためにしがみ続けよう」とか。ホームレスになったのも自分だけのせいじゃなくて、助けなきゃいけないとか、放置している社会を怒るといった方向には行かずに、ダシに使ったり、バッシングしたり、見て見ぬふりをしたり……。

ホームレスに対するバッシングで一番多いのが「自己責任だよね」という言い方ですよね。だけど、自己責任という言葉は本当に残酷だと思います。それを自己責任と言ってしまったら、「ではあなたに何かあったときには、誰にも助けを求めず、誰にも迷惑かけずに自殺なり餓死しますか?」ということになると思うので。自己責任は「死ね」ということとイコールですからね。ダメな人は死んでくださいということです。それは社会のありかたとして明らかに間違っていますよね。社会や他人の役に立てなくても、ダメでも、お金が稼げなくても絶対非難されるべきではないし、生きていていいはずでしょう。今の社会は、こんな当たり前のことが当たり前ではなくなっちゃったとすごく感じますね。

 

企業や社会から冷遇されている非正社員。中には生存すら脅かされている人まで現実に存在する。では彼らが幸せになるには正社員になるしかないのだろうか。雨宮氏はそれも違うと語る──。

シリーズ最終回の次回では、非正社員でも正社員でも生きづらい世の中を変えていくにはどうすればいいか。そして雨宮氏を駆り立てるものは何か。雨宮氏にとって仕事とは何か。誰のため、何のために働くのかに迫ります。乞う、ご期待!


 
第1回 2008.10.6リリース 生き地獄だった中高生時代
第2回 2008.10.13リリース オウム事件と阪神大震災で 人生が変わった
第3回 2008.10.20リリース 映画がきっかけで作家の道へ プレカリアート運動に目覚める
第4回 2008.10.27リリース 貧困の問題は生存の問題 生きる権利は誰にでもある
第5回 2008.11.3リリース 誰もが生きやすい社会を目指して 仕事とは全実存とイコール

プロフィール

あまみや・かりん

1975年、北海道生まれ。中学時代のいじめが元で高校不登校、家出、リストカットを繰り返す。高校卒業後に上京、人形作家を目指し美大受験に2度挑戦するも失敗し、フリーターとなる。不安定な生活の中で将来の展望や自尊心が得られず、自殺未遂を経験。その後、右翼活動家、映画出演を経て、自伝『生き地獄天国』で作家デビュー。2006年からプレカリアート問題の活動家、作家として活躍中。

【関連リンク】
●雨宮処凛公式ホームページ
●すごい生き方ブログ
●マガジン9条 雨宮処凛がゆく!

 
おすすめ!
 
『生きさせろ! 難民化する若者たち』(太田出版)

フリーター、パート、派遣、請負……安定化する若者たちの労働現場。そのナマの姿を、自身も長年フリーターとしてサヴァイブしてきた著者が取材した渾身のルポルタージュ。この国の生きづらさの根源を「働くこと」から解き明かす宣戦布告の書!!

『雨宮処凛の闘争ダイアリー』(集英社)

“1億総下流時代”がついに到来! 闘うぞ! ワーキングプアの生存権を求め、若者たちと反撃を開始した雨宮処凛。その激動の1年を記録する。ロリータを戦闘服に、格差社会の問題を常に現場リポート。連帯と行動の大切さを痛感させられる傑作!

『生き地獄天国―雨宮処凛自伝』(ちくま文庫)

元イジメられっ子で家出少女、元ビジュアル系追っかけにして、自殺未遂常習者。映画『新しい神様』で絶賛された、人呼んでミニスカ右翼・雨宮処凛のターボ全開ブッちぎり逆ギレ人生。ヘドが出るほど平和で退屈なニッポンで、自殺未遂をしないで生きるための、そして生き地獄を天国に変えるための唯一のやり方。

 
 
お知らせ
 
魂の仕事人 書籍化決!2008.7.14発売 河出書房新社 定価1,470円(本体1,400円)

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魂の言葉 魂の言葉 自問自答することで問題から逃げていることに気づいた 自問自答することで問題から逃げていることに気づいた
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取材・構成/山下久猛
写真/bushi-HONDA
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