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社説

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生活防衛予算―で、成立はいつなのか?

 解散だ、政界再編だと言っているヒマはない。いまの経済危機にいかに機敏に対応し、国民生活を守るか。それが政治の責任だ。

 総額88.5兆円、過去最大の09年度当初予算案を発表した麻生首相は、そう言いたかったようだ。「生活防衛のための大胆な実行予算」と自ら命名し、「世界で最初にこの不況から脱出することをめざす」と決意を語った。

 その意気やよし、と言いたいところだが、素直にうなずける人は少ないに違いない。

 麻生政権は発足してちょうど3カ月になる。この間、首相からはちぐはぐなメッセージが連発され、これで日本は立て直せるのか、疑問と不信が膨らんでいるからだ。超低空飛行の内閣支持率がそれを裏付けている。

 まず10月末、解散・総選挙を先送りし、緊急の経済対策を発表した。「100年に1度の金融災害」「政局より政策」と首相は言い、スピーディーな対応の必要性を強調したものだ。

 なのに、それを実行するための第2次補正予算案は来年の通常国会に先送りしてしまった。民主党など野党3党が出した緊急の雇用対策法案も、衆院で葬り去った。

 スピードが大事なのではないのかという批判には、正月が明けたらすぐに通常国会を召集し、短期間で2次補正を成立させるから大丈夫と言う。

 だが、その2次補正には野党が反対する2兆円の定額給付金が入っている。民主党は定額給付金の切り離しを求めているが、首相は「その考えはない」と言う。衆院の3分の2の多数で再議決してでも実現させる構えだ。

 これでは民主党にけんかを売ったに等しい。野党が参院で抵抗すれば、再議決まで60日間もかかる。2次補正が執行できるのは3月半ば。来年度予算はさらに先の話になる。

 首相は本気で「大胆な実行」を急ぐつもりがあるのか、それとも総選挙での政治決戦に向けて民主党との対決をあおろうとしているのか。国民は戸惑うばかりではないか。

 スピード最優先と言うなら、民主党との対決は封印し、妥協を探るべきだろう。解散を約束して協力を得るしかあるまい。対決で行きたいなら早く総選挙をすることだ。さもなければ政治の停滞が続き、雇用や暮らしの困難に直面する国民は迷惑だ。

 民主党が出した衆院解散要求決議案に、自民党の渡辺喜美・元行革担当相が賛成したのは、そうした矛盾への不満が与党内にもくすぶっていることを物語っている。道路特定財源の一般財源化が名ばかりに終わったことにも批判が強く、当初予算をめぐっても相当の曲折が予想される。

 不況はいよいよ深刻さを増す。首相にこそ「大胆な実行」を求めたい。

日系人の失業―仲間支える社会の責任

 底が抜けたような不況のなかで、働く場が日ごとに奪われている。追い込まれているのは日本人だけではない。派遣切りや解雇の嵐が、この年の瀬、日系人社会を直撃している。

 事態は日本人より深刻だ。多くが非正社員という弱い立場であり、言葉などのハンディも抱えているからだ。

 ろくな説明もなく契約を打ち切られた。家族で寮から追い出された。どこの派遣会社に問い合わせても全然仕事はない。異国の街でホームレスとなる人、帰国費用のために強盗事件を起こす人まで出てきてしまった。

 いわゆる出稼ぎではない。日系人は今やすっかり日本に定住している。

 90年の入管法改正で2世、3世らに就労制限のない在留資格が認められて急増した。ブラジル人だけで、子どもも含めて30万人を超す。

 ところが、暮らしの安全網はもろい。社員寮を出れば、日本人よりアパートを借りにくい。雇用保険に入っていない人もいる。さらには親の失業で授業料が払えなくなり、学校をやめる子も相次いでいる。

 浜松市のあるブラジル人学校は、今月末で閉鎖される。授業料の滞納と子どもの退学で、またたく間に運営が傾いた。別のブラジル人学校も、このひと月で20人近い生徒が去ったという。退学しても公立の小中学校へ通わず、家で過ごす子も少なくない。

 そんな「雇用弱者」である日系人と家族をなんとか支えられないものか。

 日本人も次々と職を失うなか、決め手があるわけではない。だが、自治体の中には雇用や生活の相談態勢を手厚くしたところもある。日系人が応募できる仕事を探すのはハローワークの役割だ。アパートの家主が国籍で区別することも避けてほしい。

 日本語が十分理解できない人に、きめ細かく情報を伝える工夫も大切だ。政府や自治体がいくら失業者の支援策を打ち出しても、残念ながら日系人にはあまり届かない。生活保護などの制度も、知らなければ使えない。

 子どもの教育もぜひ守りたい。学校に行けず家にいる子は、地元の公立校に誘ってはどうか。日本語が心配なら、日系人の親を学校でのサポート役に雇う手もある。逆に、日系人の学校を自治体などが緊急に支援して、親の負担を減らすことも考えられる。

 産業界にも協力を求めたい。人手不足の時代に「なくてはならない存在」と日系人をもてはやした企業が、まるで手のひらを返したような冷たい態度をとるのはいただけない。

 政府はようやく定住外国人の支援を検討し始めた。当然のことだ。

 厳しい時代にこそ社会の柔軟性が問われる。仲間として受け入れた以上、国籍を問わず支えていく。そのための知恵を絞らなければならない。

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