暴力団の資金源については、 2006/07/03の日本経済新聞「2部揺らぐルール(中)透明と匿名のはざまで(試される司法)」で取り上げられている (略) 「ブラックマネーがファンドに流れている」 暴力団などの捜査を統括する警察庁組織犯罪対策部。マネーロンダリング(資金洗浄)を含む資金源の解明を進めるなか、暴力団周辺から投資ファンドの口座への資金移動が相当数確認されたのだ。 (略) ような、大々的なものが目立ちます。 が、住民に身近なところでは、所得があるにもかかわらず、公営住宅に入居し、本来支払うべき住居費よりも低廉な入居費とすることで、結果として、不当な利得を得ているものや、 所得が基準を超えているため本来入居できないにもかかわらず、ブラックマネーの把握を事業主体ができないことを良いことに、所得を偽って入居し、真に入居を必要とする住民の入居を妨げているのも、 間接的には暴力団の利益になっていると考えられます。 そのこともあって、最近では、公営住宅から暴力団員排除する動きがあるようです。 例えば、2005年9月9日の官庁速報によると、 岡山市は、市営住宅などへの暴力団員の入居を禁止する。 (略) 条例案では、入居資格に「入居者や同居親族が暴力団員でないこと」を追加し、あらかじめ入居を防ぐ。一方、入居者が暴力団員であることが判明すれば、明け渡しを請求できるとしている。 (略) とか、 2005年12月2日の沖縄タイムスによると、 http://www.okinawatimes.co.jp/day/200512021300_11.html 豊見城市(金城豊明市長)は、来年二月から第一期入居が始まる改築中の豊見城団地について、指定暴力団員の入居や使用を認めない方針を一日までに決めた。 (略) 改正条例案は、入居者資格に、入居者か同居者が暴力団員でないことを加えた。また、入居者や同居者が暴力団員と判明したときは、市が明け渡しを請求できる。 (略) とか 公営住宅が自治法上の公の施設に当たることについては、あまり疑義はないと思います。 しかし、その利用関係については、いろいろと悩ましいところがあるのではないかと思います。 裁判例においては概ね、入居決定そのものは行政処分であるが、その結果成立する入居者と事業主体との関係は、私法上の賃貸借関係と性質を異にするものではない とされていると思います(必ずしも賃貸借関係そのものとは述べない判例があるところが微妙ですが…)。 例えば、 「利用関係の発生原因たる行為が使用許可という行政処分であるからといって、そのためにその利用関係の性質を公法関係というべからざることはいうまでもない」 「公営住宅の利用関係そのものは、私法上の賃貸借関係にほかならず」(東京地裁S40.6.15) 「入居者の決定(使用許可)であり、右は地方公共団体が法令(条例を含む。以下同じ。)の規定にしたがってする行政処分に外ならない。 しかし、右の使用許可によって地方公共団体と使用者の間に設定される使用関係は、その本質において借家法民法で適用される賃貸借契約である」(金沢地裁S40.11.12) 「入居者が右使用許可を受けて事業主体と入居者との間に公営住宅の使用関係が設定されたのちにおいては、前示のような法及び条例による規制はあつても、事業主体と入居者との間の法律関係は、基本的には私人間の家屋賃貸借関係と異なるところはなく」(最高裁S59.12.13) など。 民間の賃貸マンションなどでは、契約自由の原則がありますから、賃貸借契約において、特約条項として暴力団排除条項を入れることは可能ですし、現にそのような条項が設けられるようになっていると思います。 問題は、公営住宅においてそのような暴力団排除条項を設けることが可能か否かということになります。 公営住宅の入居者と事業主体との関係が、上述のように私法上の賃貸借関係であるとしても、その前段の入居決定が行政処分とされる以上、民間の賃貸マンションなどにおける賃貸借契約の承諾とは異なる規律を受けることは間違いありません。 例えば、公営住宅法23条では (入居者資格) 第23条 公営住宅の入居者は、少なくとも次の各号(老人、身体障害者その他の特に居住の安定を図る必要がある者として政令で定める者(次条第二項において「老人等」という。)にあつては、第二号及び第三号)の条件を具備する者でなければならない。 として、同居親族要件、入居収入要件、住宅困窮要件(新公営住宅法逐条解説125頁)といった入居者資格の制限が規定されています。 したがって、この入居者資格の制限に上乗せして暴力団排除条項を規定することが、可能かどうかが、一つのポイントになります。 が、法が「少なくとも」と規定していることから、上乗せすることそのものは否定されていない解することができると思います。 そして、公営住宅法48条では、公営住宅の管理に関しては条例による必要がありますから、そのような上乗せは、条例で規定する必要があると思われます。 (管理に関する条例の制定) 第48条 事業主体は、この法律で定めるもののほか、公営住宅及び共同施設の管理について必要な事項を条例で定めなければならない。 しかしながら、上乗せ規定を設けること自体は、問題ないとしても、公の施設には平等利用原則があります。 この点で、暴力団員であるということをもって、利用拒否という差別的取扱いが可能かどうかという点が問題になります。 公の施設についての行政実例では、 「集団的に又は常習的に暴力的不法行為を行うおそれがある組織の利益になると認めるときは、使用を許可しない旨を条例で定めることは差し支えない。」(S40.12.25行実) とされていますが、それは、あくまでも「組織の利益」、つまり暴力団の資金源にしないということ(ジュリスト地方自治判例百選(初版)185頁)に重点があるのであって、たまたま体育館の利用者が暴力団員であるからといって、利用を拒否することが適当であるということにはならないと思われます。 したがって、真に生活に困窮している個人としての暴力団員について、入居を拒否することが、公営住宅法の趣旨目的に鑑みて、適法か否かという疑問は生じます。 これに対しては、当該入居希望者が、暴力団員であることをやめさえすればよいのだから、問題ではないという見解もありえますが、この場合は、結社の自由の観点から微妙なところがあるように思えます。 ただ、平成11年8月27日京都地裁判決平成7年(ワ)第232号が暴力団員による不当な行為の防止等に関する法律についてですが、 「暴力団の結成の禁止や解散命令等の団体規制をなすものではないうえ、暴力団が社会に有害な存在であることは多言を要しないから、憲法21条1項による保護を受けるに値しない」 としていることから、暴力団は社会に有害なのだから許される(ちょっと強引な気もしますが)と整理することもできるかもしれません。 その他にも、憲法との関係では、法の下の平等との関係も気になるところです。 暴力団員であることのみをもって区別をすることについては、上記の判決では、 「暴力団員の行う暴力的要求行為等から市民を守るため、暴力団を他の団体と区別することには合理的理由があるから、同法14条に違反するということもできない。」 と述べていることから違憲ではないいと言えそうです。 しかし、例えば、いわゆる「厳格審査基準」によって審査をした場合に、公営住宅の入居決定について、暴力団員であることのみをもって区別をすることに、「強度の正当化理由」があると言えるのかどうか難しいところだな〜と感じる次第です。 ただ最高裁での平等原則に関する違憲判決はほとんど出ていないので(尊属殺重罰規定違憲判決と衆議院議員定数訴訟ぐらいでしょうか http://ja.wikipedia.org/wiki/%E9%81%95%E6%86%B2) そこまで厳格にする必要はなく「合理性の基準」による審査で充分だと考えて、暴力団員排除を規定することも許されると整理することもできるかもしれません。 なお、この法の下の平等との関係については、 公営住宅管理の手引(ぎょうせい)175頁において 「暴力団、暴走族等の関係者であることのみを理由にして入居を拒むことができるかについては、憲法14条との関係で疑義があるところである。 また、仮りに入居を拒むことができるとしても暴力団、暴走族等に該当しない旨を条例で入居者の具備すべき条件として規定しなければならない。 この場合、不当に入居者の資格を制限することのないように要件を明確にする必要があるが、規定の仕方が非常に困難である。」 とされていますが、前段については上述のように整理できるでしょうし、後段については同書の出版後に暴力団対策法が制定され、暴力団の定義がなされたことから、問題はクリアーできていると考えられます。 また、憲法との関係では、そのほかに生存権保障の関係も問題になるでしょう。 現在の多数説である(ですよね?)抽象的権利説によれば、生存権が立法によって実現され具体的な請求権として定められる必要があります。 で、公営住宅法は第1条の目的規定で (この法律の目的) 第1条 この法律は、国及び地方公共団体が協力して、健康で文化的な生活を営むに足りる住宅を整備し、これを住宅に困窮する低額所得者に対して低廉な家賃で賃貸し、又は転貸することにより、国民生活の安定と社会福祉の増進に寄与することを目的とする。 と規定していますから、公営住宅法が、「生存権の達成のため」の法律であることに間違いはありません(新公営住宅法逐条解説5頁)。 ただ、朝日訴訟で問題とされた生活保護を受ける具体的な権利=保護受給権を付与している「生活保護法」とは異なって、「公営住宅法」は住宅困窮者に公営住宅に入居する権利を保障したとまではいえないでしょう。 したがって、25条違反ではないと整理することもできるのではないかと思います。 まあ、結局、縷々述べてきたましたが、 横倣えが結構多い条例において、どうやら公営住宅における暴力団排除規定があまり広がっていないのは、当然ながら暴力団を公営住宅から排除する必要性がない。 つまり立法事実がないということもあるのでしょうが、上述のような問題点がいろいろとあるがためにということもあるのでしょうね〜。 なお、実際に入居拒否を行うには、入居申込者が暴力団員であることの確認が重要な点になりますが、この点については、 「暴力団排除等のための部外への情報提供について(平成 12年 9月 21日警察庁暴力団対策部)」 http://www.npa.go.jp/sosikihanzai/kikakubunseki/bunseki1/tuutatu.htm で「情報提供できる場合を定型化・類型化して警察と他の機関との間で申合せ等が結ばれている場合」とされていることから、警察と申合せをして、それによって情報提供を受けて確認することは可能になるのでしょう。 |
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県営住宅からの暴力団排除関連
官庁速報で県営住宅から暴力団員の排除が何度か取り上げられています。 ...続きを見る |
しがない地方公務員のメモ帳 2007/07/19 23:32 |
内 容 | ニックネーム/日時 |
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拝啓、文字化けしていて読めません。残念です。草々 |
(^-^)風顛老人爺 2006/07/26 08:34 |
ご指摘ありがとうございます。 |
bottom 2006/07/26 22:37 |
文字化け対策で、長文部分に改行を入れて見ました。 |
bottom 2006/07/30 11:23 |
拝啓、書き込み遅くなりました。大丈夫です、文字化け解消されました。ありがとうございます。草々 |
(^-^)風顛老人爺 2006/07/31 21:13 |
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