【暮らし】病院が連携 情報を共有 新生児死亡率低い広島市2008年12月25日 生後四週未満の新生児千人当たりの死亡率を政令市別にみると、広島市は〇・四人と全国で最も少ない。妊婦や新生児の搬送拒否や医師不足の問題など課題の多い周産期医療で、広島には何か特別な事情があるのだろうか。県立広島病院の母子総合医療センター(広島市南区)を訪ねた。 (福沢英里) 朝のカンファレンス。新生児科スタッフが集まる中で「N1G1」の文字が掲示板に刻まれた。これはスタッフ同士の暗号。看護師長が産科の看護師長に伝え、産科のスタッフにも伝わる仕組みになっている。 NはNICU(新生児集中治療室)、GはNICUを出た後に治療を進めるGCU(継続保育室)。数字は空きベッドの数だ。 例えば「N0G0」はNICUにもGCUにも空きがなく受け入れができない。胎盤早期剥離(はくり)など母子ともに命にかかわる緊急時はひとまず受け入れてはいるものの、その際は市内で県立広島病院とともに総合周産期母子医療センターの指定を受ける広島市民病院が頼りとなる。 「市民病院に事前に満床であることを伝え、互いに最後の砦(とりで)という意識を共有している」。新生児科の福原里恵部長(46)はそう話す。 県立広島病院では緊急時に備えてベッドを空けるため、GCUの退院指導を早期から実施。ミルクの飲ませ方など細かいことから丁寧に指導し、母親の退院後の生活不安を取り除くよう努めている。 福原部長が不可欠と考えているのは、地域のかかりつけ医との支援体制だ。母子にあらかじめ自宅近くのかかりつけ医を決めてもらい、福原部長は出生時の様子や入院中の経過などを書いた紹介状を、退院時に母親に手渡している。 NICUを退院した新生児や乳児を初めて診る開業医は、母親の経過説明だけでは状況が分かりにくい場合もある。紹介状があれば薬の処方などがスムーズに対応できる。発熱や肺炎の原因となり、未熟児で生まれた子がかかると重症化しやすいRSウイルスによる感染症については、予防接種がかかりつけ医で実施できるよう福原部長が手紙を書いて依頼する。 開業医と連携が進むにつれ、外来での業務や母親からの相談電話が格段に減少。その分、重篤なケースに対応しやすくなる“すみ分け”の効果が、新生児死亡率の好成績につながっている側面がある。 ◇ 広島県では一九九七年に周産期医療協議会を設立。空床状況などを把握できる医療情報ネットワークを同時スタートさせた。その結果、妊産婦死亡率や周産期死亡率の九五−二〇〇四年の平均で、広島県は全国最低となった。 周産期医療の充実には、協議会が産科医の集約化を十年ほど前から国に先行実施してきた経緯がある。また、周産期母子医療センターの医師の大半が広島大出身で「お互いに顔見知りでコミュニケーションがとりやすい」(福原部長)。 ただ、広島県でも医師不足は深刻。世代交代がスムーズに行われなければこの先の保証はない。福原部長は「若手の人材育成と常勤医の数を増やし、休める態勢をいかにつくるかが今後の課題」と話した。 <新生児1千人当たりの死亡率> 厚生労働省の07年人口動態調査によると、政令市では最少が広島で、神戸の0・8人、北九州0・9人が続く。最多は仙台・川崎の1・6人。名古屋と東京特別区は1・4人。都道府県別では香川の0・6人が最少で広島と山梨の0・7人が次ぐ。多い順では和歌山の2・3人、滋賀2・1人、茨城・徳島・長崎の1・8人。
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