社長の仕事術
2008年 12月 19日

なぜ、「時価総額経営」と一線を画するのか:吉野家式会計学(5)

バイト出身社長、安部修仁に聞く【M&A】

積極的にM&Aを推進する背景には、やはり、牛丼単品経営のリスクヘッジという思惑があるのだろうか。

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96年のピーターパンコモコ(当時はコモコフード)を皮切りに、吉野家は京樽、はなまるなど複数の外食チェーンを合併・買収してきた。この10月には吉野家ホールディングスを設立して、グループ体制の強化を図る。

積極的にM&Aを推進する背景には、やはり、牛丼単品経営のリスクヘッジという思惑があるのだろうか。
「その発想は、90年代の後半から言っていることだから、もう久しい。ホールディングスへの移行は、むしろ僕らの理念を発揮するためのひとつの方法論です」

では、株式時価総額を膨らませることを狙った戦略だろうか。
「それも違います。うちは事業の経営をやっているのであって、株式時価総額を増やすことがトップ・プライオリティーではない。株式時価総額主義とは、一線を画しています」

安部社長の経営理念は明快だ。吉野家の事業は客に喜んでもらうためにある。その理念を同じくする仲間が豊かになるためには、利益を増やさなくてはならない。そして株価とは、あくまでもそうした事業活動に対する市場の評価であると。

「むろん時価総額は高いに越したことはないけれど、短期的に株価を上げようとは思っていない。われわれは長期的に株価を上げることに判断の軸を置いた経営を標榜するということです。もし、株主が短期的に株価を上げることを望むのであれば、僕らに経営をさせないほうがいい」

だから、吉野家のM&Aは“召し上げる”スタイルをとらない。あくまで、吉野家が培ってきたノウハウが相手にとって有効性があると判断できる場合だけ、M&Aに踏み切る。
「われわれと関わることで、相手のビジネスがさらに高まり、われわれもよくなることが必須条件。補完し合いながら有効にドッキングするということです」

同時に安部社長がこだわるのが、1社ワンブランド戦略である。買収した企業のブランド数を、極力絞り込んでいく。
「そのフィールドごとのトップブランドになってほしいからです。ただし、絶対売り上げと絶対利益を大きくしろという意味ではない。1店当たりの来客数と利益率が、相対的に最も高いという意味でのブランドを目指すのです」

つまり、吉野家同様、徹底的に商品を磨き上げ、本業だけで稼ぐ尖った企業群を育て上げたいというのが、M&Aを行う真意なのだ。最後に、安部社長にとって数字とは何かを尋ねてみた。

「最も重要なコミュニケーションの道具ですね。言葉だけを伝えると、まったく逆の解釈をされるといったことがしょっちゅう起こってしまう。ですから、個々の役割を明確にするためには、数字で目標を伝えることが不可欠です。ところが、数字だけ伝えると、今度は手段の目的化という現象が起こってくる。数字はあくまで手段であって目的ではない。だから、数字は必ず目的と一緒に伝えなくてはなりません。数字を使うときには、きちっと翻訳してやることが大切なのです」

【吉野家 DATA FILE(5)】
 売り上げの約40%は牛丼以外の商品で占める

吉野家D&Cグループ 売り上げ内訳

グループ全体の売り上げの半分近くを牛丼以外で占めることは、意外と知られていない。07年、1杯180円の「びっくりラーメン」チェーンを運営する「ラーメン一番本部」の救済に乗り出すことを発表。ラーメン店を傘下に置くのは初めて。

>>安部社長が語る「吉野家式会計学」は全5回更新中!

プロフィール

山田 清機

ノンフィクションライター

やまだ・せいき●1963年、富山県生まれ。87年早稲田大学政治経済学部卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経てフリーとなる。人物評伝、ノンフィクション、企業取材などで活躍中。近著に『青春支援企業』がある。

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