社長の仕事術
2008年 12月 18日

なぜ、3年商売しなくても給料が払えるのか:吉野家式会計学(4)

バイト出身社長、安部修仁に聞く【流動資産比率】

吉野家にとって、土地建物はあくまでも“商売をやる場”なのであり、営業外収益を生み出すものとして認識していないのだ。

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73年にチェーン展開を開始して以降、吉野家は急激に店舗数を増やしてきた。71年、安部社長が吉野家でアルバイトを始めた頃は、まだ5店舗目を開店したばかりだったが、77年には国内100店舗を突破、78年には200店舗突破と、まさに破竹の勢いだった。

当時の吉野家の店舗拡大の手法は、専ら借地とリースによって出店するというものだった。不動産価格の上昇を見込んで土地を購入し、値上がりした土地を担保に新たな融資を受けて次の土地を購入するという、当時、多くのチェーン店が採用していた手法を吉野家はとらなかった。言い換えれば、固定資産の取得をほとんどしなかったわけで、このことをもって、吉野家はバランスシートの軽い経営を志向してきたと見る向きがある。

「それは昔の話でね、当時は自己資金も担保資産もなかったから、借り入れをして、すべて借地とリースでいくという、出資がいらない出店方法をとっていたわけです。自己資本がないからそうしたまでで、いまは、土地も建物も所有していますよ。ただ、積極的に土地建物に投資するスタンスがないのは事実。不動産はあくまでも営業絡みで取得しています」

つまり吉野家にとって、土地建物はあくまでも“商売をやる場”なのであり、営業外収益を生み出すものとして認識していないのだ。まっとうといえば、あまりにもまっとうな考え方だ。さらに、会社更生法申請以降の出店基準には、異様に高いハードルが設けられている。

「倒産後、出店基準をROI(投下資本利益率)20%以上、営業利益率10%以上と定めたわけですが、この基準はいまでも変えていません。言い換えれば、営業キャッシュフロー重視の経営を志向しているということです」

こうした高いハードルの設定により、吉野家の退店率は極めて低く抑えられている。吉野家は、徹底的に本業で稼ぐ企業なのであり、しかも相当に渋いのだ。

必要性のない不動産を取得せず、営業利益率を徹底的に追求し、しかも新規投資に極めて慎重となれば、当然、手元にはキャッシュが残る。吉野家の流動資産比率は同業他社と比較しても極めて高く、長短の借入金も少ない。つまり、現ナマをたくさん持っているわけだ。

有名な話がある。米国産牛肉輸入禁止を受けて牛丼の発売を停止したとき、安部社長は社員に向けてこう宣言した。
「2~3年は商売しなくても、社員の給料は払えます」

当時の吉野家は、約300億円のキャッシュを持っていた。
「手元流動性が高い形で資産を持っていると、いざというとき時間が稼げる。牛丼発売停止の後、デッドストックを出しつつも新メニューを軌道に乗せることを優先できたのは、キャッシュを潤沢に持っていたからです。つまり、それをやらなきゃ死んじゃうというとき、赤字を出してでも生命の維持・継続に集中できる。死んで花実が咲くものかってやつかな」

【吉野家 DATA FILE(4)】
 固定資産を持たない経営でリスクを回避

流動資産比率の推移

店舗拡大にあたり、土地、店舗、厨房機器に至るまですべてリースでまかなった。それゆえ、バブル後の不動産値下がりによる損益をこうむらずに済んだ。現在は固定資産も持つが、キャッシュフロー重視の経営であることには変わりない。

>>安部社長が語る「吉野家式会計学」は全5回更新中!

プロフィール

山田 清機

ノンフィクションライター

やまだ・せいき●1963年、富山県生まれ。87年早稲田大学政治経済学部卒業。鉄鋼メーカー、出版社勤務を経てフリーとなる。人物評伝、ノンフィクション、企業取材などで活躍中。近著に『青春支援企業』がある。

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