重い脳性マヒで生まれた子供を救済する産科医療の「無過失補償制度」が来年から始まる。不十分な点が残るとはいえ、わが国初の制度だ。今後、対象範囲を拡大するなど大きく育てていきたい。
産科医療補償制度は、通常の妊娠・出産で医療機関に特段の落ち度がなくても、一定の確率で生まれる脳性マヒの子供を救済するとともに、原因を究明し、再発防止を図るのが狙いだ。
脳性マヒだと分かると、二十歳になるまでに一時金と介護費合わせて総額三千万円が支給される。補償対象者は年間五百人から八百人とみられる。
医師千人当たりの診療科別の医療事故訴訟の中で産婦人科は一六・八件(二〇〇六年)と最多で、深刻な産科医不足を招く大きな要因と以前から指摘されていた。
脳性マヒが訴訟の大部分を占めていることを踏まえれば、補償制度の活用で訴訟の減少が期待される。この点は評価したい。
補償対象を脳性マヒに限定したうえ、同じ脳性マヒの中でも染色体異常など先天性の場合などは除外している。なぜ脳性マヒ全体、さらに他の疾患にも対象を拡大しないのかとの批判が起きている。
運営状況をみながら補償対象を少しずつ拡大してもらいたい。
補償制度は厚労省の外郭団体である「日本医療機能評価機構」が運営主体となって民間保険を利用しているため、複雑な仕組みになっているのも難点だ。
分娩(ぶんべん)機関は一件当たり三万円の掛け金を立て替えて「機構」に払い、その分を出産費用に上乗せして妊婦に請求する。妊婦には健康保険組合から出産育児一時金と掛け金が合わせて払われる。
積み立てた掛け金の剰余金が生じた場合、掛け金の額や補償額を見直すのかなどは今後の課題として残されている。そのためにも経理の透明化が欠かせない。
補償と同時に「機構」の専門委員会が行う原因分析で強く求められるのは客観性、中立性、公平性である。分析結果については親への丁寧な説明が必要だ。厚労省は常にチェックすべきだ。
本来なら国の立法措置による公的な補償制度が望ましいが、緊急性の高い産科の脳性マヒに限定して民間保険を活用して発足にこぎつけた経緯がある。
軌道に乗れば医療機関と患者の信頼関係の回復にも役立つだろう。その方向に発展させなければならない。
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