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アニメから見る時代の欲望

「正義」への欲望が「匿名の正論」を暴走させる

水島精二監督「機動戦士ガンダム00」(1)

―― それはネットだけの傾向なんですか?

 ネットが顕著ですね。この手の発言はブログよりも、匿名で書ける掲示板が多いです。

 個人のブログでは、脊髄反射のような感想はあまり書かないですよね。それよりも、大型掲示板のような、ある程度人が集まる場所で匿名を使って、作品やアーティストなどを蔑む書き込みをするケースが数多く見受けられます。この人たちは、売れているものがよほど嫌いなのかしら、と思ったりもします。

 こういう人たちは、「○○のアンチ」というよりも、「売れているもののアンチ」と言うべきなのかもしれません。

 作品を見て楽しむというスタンスではなくて、作品をはなから批判してやろうという人間が、これだけネット上に多いのだと思うと、ネットという媒体は、メジャーなものに対しての反感が相当強いのだろうなと感じますね。

―― 私たちがふだん暮らしていて、それほどひどい批判と相対する場面はあまりないですよね。ネットになると、何かが違ってくるのでしょうか。

 やはり、匿名性が高い場所だと、余計に尻馬に乗っかって書いてしまえ、というところはあるでしょうね。

―― 直接ファンから何かを言われることはありますか? ネットでそういう発言をする人は、若い人が多いのでしょうか。

 どうなんでしょう、直接僕が会った子に関しては、悪い印象はまったくないのですが。

 知り合いから、「この子たちはガンダムを見ていて、アニメの仕事に興味があるみたいだから話をしてあげてよ」と言われて会う学生さんなどは、普通にちゃんとしている子が多いと思いますよ。ちゃんと敬語が使えて、自分で質問もできて、批判的な意見も整理して伝えてきますし、こちらが言ったことに対して反応ができるという。きちんとした子がわりと多いのではないかと思います。

 そもそも悪口を言っている人たちが若い子かどうか、匿名だから分からないですよね。それは年齢云々じゃないような気がします。

「国民の非難の声」はだれが上げている?

―― ネットではなぜそうした「アンチ」になる人がいるのだと思いますか。

「機動戦士ガンダム00」 水島精二監督

 昔からそういう意識の人はいたんじゃないでしょうか。アニメに限らず。社会への不満の声とか、そうした不満の声が、ネットのおかげで僕たちにダイレクトに届くようになった。匿名というマジックアイテムを使って。

 テレビとかでもありますよね。「国民の非難の声」というのが。あれもよく考えると面白い。

―― 匿名の声は、ネットに限らないということですか。

 少し前から年金問題が上がっていますよね。僕にも通知が来たんですが、僕のところでもやはり漏れがあってとても困ったんですけど、あれは福田政権下で、厚生大臣の舛添さんが手を打ちますということで実行していたけれども、福田さんと桝添さんのときに起こったことではない。過去の清算をさせられているにもかかわらず、「国民の非難」は、いま責任者になっている人に集中するじゃないですか。

 もちろん年金問題に対して、お役人は無責任だなという思いはあるけれども、それはとりあえず置いておいても、今の時代で面白いと思うのは、「国民は怒っています」という、誰が言いだしたのか分からない意見に対して、お役人や企業が謝罪をするというところなんですよ(笑)。

―― 「国民は怒っています」という声は、誰が言っているかわからない声、つまり匿名ということですか。

 そうですね。匿名による非難は、企業とか政治家とかタレントとか、とにかく対象が有名なほど標的になりやすくて。

 タレントの失言などもそうですよね。話の流れに関係なく、その発言だけが抽出されて、不謹慎だ、国民に謝罪しろと叩かれるという。かわいそうだなと思いますね。確かにその発言自体は非常識だと思います。ただ、間違った事を言いました、というのは、怒られればそれで済むことなのに、なぜわざわざ記者会見を開いて謝罪して、謹慎までしなければいけないかのと。

 ネットで騒ぎになっていることをマスコミが拾ってきて、さらに騒ぎが拡大して、国民に非難された側が取りあえず謝罪をして、肝心の、原因となった大本の部分は分からないまま終わる、という。あの構図は不思議だなと思います。

 国民に指摘を受けた側も、誰に対して謝罪しているのかわからない。真に謝罪すべきは害を被った人たちではないのか、という。「社会」に向けて一応の謝罪をしているんだけれども、その「社会の憤り」だって、本当に、社会にいる人全員が憤っているのかはわからないわけですよね。

―― 怒っている人が誰なのかよく分からないままに、謝罪が行われると。でも、国民の非難の声というものは、今に始まったことではないですよね。なぜ今は、対象になった人々が謝る時代なのだと思いますか。

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このコラムについて

アニメから見る時代の欲望

アニメーションは、頭の中で望んだことを描き動かすもの。作り手の嗜好を忠実に映像化することができる。そして作り手は、視聴者の欲望をいかに捉えるかに常に腐心している。アニメにこそ、時代の欲望が見えるのではないか? そんな仮説を手に、日々アニメ制作に臨む監督たちにインタビューを申し込んでみた。

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著者プロフィール

渡辺由美子(わたなべ ゆみこ)

1967年、愛知県生まれ。椙山女学園大学を卒業後、映画会社勤務を経てフリーライターに。アニメ・コミックをフィールドにするカルチャー系ライターで、作品と受け手の関係に焦点を当てた記事を書く。男性と女性の意識の差を取材した記事も多い。著書に「結婚ってどうよ!?」(岡田斗司夫氏との共著)ほか。

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