フランスと日本 生活保護制度の違い、人々の意識の違い 森 ありさ |
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日本のテレビ番組の質は年々低下している パリに住むようになってからもう十数年になりますが、それでも毎年夏には日本に帰省しています。パリでは夜のニュースぐらいしかテレビを見ることはないのですが、日本にいる間はついつい長時間テレビの前にへばりついてしまいます。残念ながら、日本のテレビ番組の質は年々低下しています。ニュース番組でも、取り上げるニュースの選択が偏っていたり、キャスターがあまりにもニュースのお知らせアナウンサー的であったり、大衆の感情におもねるようなコメントを言ったりするので、それほど満足して見ているわけではないのですが、それでもついニュース番組のハシゴをしてしまいます。 生活保護打ち切りで餓死というニュースにショック さて、少し古い話ですが、昨夏、あるニュースを見て非常にいやな気分になりました。日本の不条理な面をまざまざと見せつけられるような思いがしました。それは生活保護が打ち切りになって、餓死してしまった男性のニュースでした。この男性は持病があり、仕事を見つけようにも容易ではない状態で、それなのに、市役所の生活保護課では、男性がまだ仕事をすることが可能であること、また親戚に援助を頼めばいいなどといった理由でもって、生活保護を打ち切ってしまいました。 フランスで生活保護を受けるための条件は 私が不快になるほどショックを受けた理由は、生活保護を受けられるかどうかということを市役所の職員が主観的に決めるということなのです。おそらく一応の基準はあるのでしょうが、最終決定権は職員の裁量に任されています。よく考えればこれはおかしいと思います。フランスで生活保護を受けるための条件は、収入が一定金額以下であるということのみです。収入というのは労働収入、家賃収入、国からの手当てを指しています。ですから、お金もちの親戚がいようと、そんなことは一切無関係です。外国人であるということも関係ありません。決められた額以下の収入しかない人は誰でも、書類をそろえて申し込みさえすれば、生活保護を受けることができるのです。また、生活保護を打ち切られるという場合も、市の職員がその場で決定したりはしません。生活保護手当受給者は三ヶ月ごとに収入の申告をしますが、その収入の額に応じて生活保護手当の受給額が変動し、一定の収入を超えると打ち切りになります。生活保護手当の受給期間が長いからということや、援助可能な親戚がいるということや、労働可能な年齢であるということは、打ち切りの理由とはなりえません。なぜなら、労働可能な肉体と意志を持っていても、仕事が見つからない場合はいくらでもあるからです。仕事が見つからない人イコール仕事をやる気のない人ではありません。フランスでは一時的に不運な状態にいる人というカテゴリーに入れているのだと思います。 クリスマスには、被保護生活者に220ユーロ(約3万円、HP管理者の注)が支給される 日本は江戸時代から「働かざる者、食うべからず」で、食べるものがないのは仕事をしない本人が悪いからだと考えがちです。今でも収入の多寡が評価の対象になりがちです。しかし、かなりその影響力が弱まったとはいえ、フランスではキリスト教の考えが深く根付いています。弱者に対する慈悲の心というものが存在しています。そういった観点から、弱者に対するさまざまな対応が行われているのだと思います。民間レベルでは、今は亡きコメディアン、コリューシュが始めた「心のレストラン」があります。これは社会的弱者にただで食事をサービスするシステムです。また、冬のフランスはかなり冷え込むので、路上生活者を住まわせるためのセンター、またそうした人たちにセンターに行くように説得する人道団体のボランティアたちがいます。彼らの活躍をテレビで放映していましたが、かなり若くてきれいな女子学生たちが必死で路上生活者たちと話し合う様子には胸を打たれました。あと二ヶ月でクリスマスですが、このフランス人にとって最も大きな、家族のお祭りに際して、被保護生活者は220ユーロを受給することになります。しかも、プレゼントを買うだけの時間的余裕を見越して11月末に支払われます。日本であれば、それは弱者を甘やかしすぎだと不満が出るかもしれません。
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