2008年12月の日記
2008.12.01.
どうしてか、ドライヤーを使ってると生臭いにおいがすることに気づきました。
なんで!?要素ないじゃんそのフレーバー!と困惑した時の不定期連載。
「神々の天敵か」
「もしかしたらこの世界の存在ではないのかもしれない――そんなことがあるのならだが。あいつだけが異質で、この世界の成り立ちのどこにも現れないんだ」
「ふうむ」
少なくともキムラック教徒にとってこれは、際どい話だ――あいつが避けたのもよく分かる。
もっとも、あいつが避けたのなら、自分まで避けるわけにもいくまい。複雑な心持ちで、こいつは先を促した。
「それで? そいつの力がお前に取り憑いてんのか」
「そうだ。聖域の第二世界図塔によって、ドラゴン種族の遺産は完結した。これで終わりだ。もう二度と、ドラゴン種族の力は頼れない」
「別に今のところ、これまで知ってたことと矛盾があるようにも思わんが」
こいつは指摘したが、これは先走りだったらしい。そいつは手で制すると、ゆっくりと続けた。
「ひとつ見落とされていたことがある。人間種族のルーツだ」
「漂着前の歴史は残っていない」
と、これも一般的に知られたことをこいつは告げた。そのため、開拓計画は難航している。大陸の結界が消えた今も、外洋がどういった状況なのか誰も知らないのだ。
そいつは同意した。
「ああ。人間種族は三百年前、本当にひょっこりと現れた。神々の現出が起こったのが千年前。人間種族が結界内に漂着したのが三百年前。この七百年間、どうやって外界で人間種族は生き長らえたのか」
2008.12.02.
一見凄そうだけどまったく無意味なわたしの特技(?)に「目覚まし時計をセットして眠るとその時刻の数分前に必ず目を覚ます」というのがあります。
役には立たないんですが、どういう仕組みでそうなってるのか気にはなっています。なんなんだろう。時の不定期連載。
「俺にそれを訊くのか?」
もちろんそれと分からずに質問しているはずもないだろう。こいつは面食らいつつも、こんなことを魔術士と語り合う自分の境遇に皮肉を感じた。
「その当時、人間は魔術士化していなかったから、神々の怒りは買わなかった。それがキムラック教会の見方だ。そして七百年間外界で生存していたってのがこの開拓計画の根拠でもある」
「違うと言ったら、反発するか?」
問いかけてくる。
(まったく――)
と、声に出さず呆れ返る。
厄介事だと分かって投げてきている。
計っているのだろうということは想像できた。キムラック教徒がどう反応するかを。
くたばれ、と仕草で示してから、こいつは首を振った。
「聞いてから判断するさ」
「俺にも確信があるわけじゃないが、これから先、あることが確認できれば、この推測は証明できると思う」
「なにが確認できたら?」
「あいつの死だ」
沈黙の空間を挟んで、向かい合う。
こちらがなにも言わないのを見て、そいつは口を開いた。
「あいつが始祖魔術士でないことが分かれば、かなりの部分がはっきりする」
「続けろよ」
「まずひとつ。あいつは天人種族に改造された、記憶と人格を与えられた人形だ。これが意味するのは、天人種族がなにかを隠すつもりだったということ」
「あと、俺たちが馬鹿だったってことか?」
「特定の立場がどうこうってことならもっと話は早かったかもな。でも違う。俺たち全員が、騙されるべくして騙されてたんだ。俺の先生だって」
そいつは言って、話を続けた。
2008.12.03.
旅行に行きたい気分だけどそうもいかないうちに年の瀬になってる時の不定期連載。
「そしてもうひとつ。人間種族に始祖魔術士がいるなら、偽を用意する必要はない。始祖魔術士はいないんだ」
「だとしたら、仕組みに反するだろう」
「問題はその仕組みだ――始祖魔術士は、その種族が魔術士として神々に存在を認識されたという証、楔みたいなもんだ。言う通り、いなければ魔術のシステムは成立しない。なのにどうして人間種族には魔術士がいるのに、始祖魔術士がいないのか?」
「だから仕組みが――」
繰り返そうとするが、そいつは話を止めなかった。
「俺たちは神々、システム・ユグドラシルに認識されるまでもないんだ」
推量で話しているという顔ではない。
踏んではならないところに腰まで沈み込んでいる気配はとうに感じていたものの、こいつは意を決して、居心地の悪さを呑み込んだ。
「つまり?」
「聖域の始祖魔術士は、俺を見て、巨人種族と呼んだ」
と、胸元を示す。続けてそいつは、頭の横を指さした。
「それがどういうことなのか、魔王スウェーデンボリーは知っていた。神々の現出に呼応して生じる、巨人種族の現出だ」
巨人種族。
こいつは音に出さず、それを口の中で転がした。この魔術士は普通に口にしたが、不気味な言葉だ。
その不気味さに、魔術士は説明を付け加えていった――呪文のように。
「環境に対して形質を変え、成り行きにでも能力を獲得すればそれを我が物にしてどこまでも強大化していく。魔術はそのひとつだし、機械技術も制度も、全部ドラゴン種族から手に入れ、進歩させている。巨人種族……いや人間種族と呼ぶほうが分かりやすいか。人間種族はドラゴン種族と違って、衰退どころか神々の現出すら克服しかねない」
「随分と持ち上げるもんだな」
2008.12.04.
わりと臆せずシールとか貼っちゃう派です。わたし。時の不定期連載。
「そうでもない。危険なことだ。それが克服された時、世界はまた変質する。神々の無意味化、無価値化だ。極限化すれば世界をまた原初の唯一の真なる状態にまで――まあいい、明日にでも負けて滅びる可能性のほうがずっと高いし、起こり得たとしても、どうせ気の遠くなるような先の話だ」
話が飛びそうになったのか、そいつは言い直した。
「神々は巨人を殺して世界を創ったと伝えられている。それは正しいが、正確じゃあない上に、しかも文字通りの話だった。世界の始まりの時、まったく変化の要素を持たないただひとつの塊であった世界が、砕けた。変化の可能性が生じて、未来が生まれた。変化の可能性、その方向性、指向性、それが神々であり、システム・ユグドラシルだ。つまり神々は巨人と表裏一体だし、巨人そのものでもある。同質にして正逆の」
そいつは塊を持つような手つきをして、それを開いてから、また元にもどした。
「ドラゴン種族は、このシステムを一部逆行させたんだ。可能性に手心を加える手段を求めて――つまり魔術だ」
嘆息して、続ける。
「それが神々の現出を招いた。神々は、可能性を進ませるという自らの本質のため、この逆行を許さない。ドラゴン種族はそれから逃れるため、さらに可能性を逆行させた。変化の拒絶、アイルマンカー結界がそれだ。ただこれは……時間の問題だった」
「力が足りなかった?」
「いいや、もっと根本の問題だ。変化の拒絶は突き詰めていくと、結局は死と同質のことになる。始祖魔術士のしようとしていたことがまさにそれだろう。突き詰め切るわけにはいかないから、結界には必ず不備が生じる。時間稼ぎにしかならないのさ」
時間稼ぎ。
その言葉を聞いて、こいつは時計を意識した。まだそれほど話してはいないし、時間潰しも済んでいない。
だがまさかそんなことで信仰まで試されることになるとは思っていなかった。が、試しとは元来そういうものかもしれない。
2008.12.05.
緑のたぬきコーンスナックを食べた。カップそばに入ってる天ぷらをそのまま食べてる気分ではありました。時の不定期連載。
胸の中でうずまく不安は、単に心持ちの問題だけではない。この魔術士はこう言っているのだ――新大陸であいつで対決するというのは、キムラック人がこの話に直面することだと。いや、あいつに対抗するため、この話を積極的に使いすらするということだろう。
そしてもうひとつ、暗にこうも言っている。
(俺に、その準備をしとけってことだろ)
前に利用した仕返しか?
皮肉を込めて見やる。魔術士はこう告げて、話を締めくくった。
「当時のドラゴン種族はこの話を知っていた。人間種族を保護したのは、隔離したかったのか、それとも利用したかったのか。可能性を信じて託したかったのか。どの派もいたってのが一番考えられるかな。関わり合うのを反対した者もいただろう。なんにしろ……今の形になった」
「ふうん」
こいつはぐったりと、椅子を傾けた。
「さっぱりだな。それをそのまま書いたって、誰か理解できんのか」
タイプライターに視線をやる。
散らかった紙屑の量からして、苦戦しているのは見て取れる。
魔術士はこう答えた。
「できないか? つまり神々が元々持っていた肉体こそが、巨人なんだ……俺たち人間種族もまた、現出した神々の一部だってことだ。相反する一部同士だよ」
「いや、理解したいのかどうかって話さ。それは俺たちがやってきちまったことも、堪え忍んできたことも、全部無意味だったって話だぞ」
「……そうだな」
だが、まさにそれこそが変化だとも言える。
魔術士がわざわざ触れずともそれは分かっていたが――学者や哲学者の手遊びならともかく、政治的に使うならば、慎重を要する話だ。
「だいたいそいつにしたって、どれくらい本当なんだ」
問いかけると、魔術士は投げ出すように手を振った。
「さあな」
2008.12.06.
「それで、変なホルモンが出てくるんだよ!」
ホルモンについて熱心に議論する男子高校生とすれ違いました。時の不定期連載。
と、こいつと同様、疲れたように椅子の背にもたれてみせた。天井に向かって、噛み締めるようにつぶやく。
「本当かどうかなんて、実際どうでもいい。仮に真実だとしてもだ、降って湧いたような真実になんの意味があるのかって話だろ? 今日、あいつにも言われたよ。言われたらこう答えるしかない――そんなの分からん」
その名前を聞いて、こいつは顔をしかめた。
「あの女は苦手だな。果てしなく話が噛み合わなくてよ」
「向こうのほうがお前を苦手だろうよ。死の教師を連れてくるって言ったら、震え上がってた。手配書で見たことあるとさ」
「付き合いは長いのか? あの連中とは」
アーバンラマという街を示すつもりで、訊ねる。あの姉妹らとは、仕事の付き合いだけという様子ではないが。
だが魔術士はかぶりを振った。
「いいや。前に、半年ほど滞在したところで、ちょっとな――まあその間はしょっちゅう顔を合わせてた」
天井を見たまま、遠くを眺めている。
なにか違うもののことを思い浮かべている気配を察して、こいつはつぶやいた。
「……あいつらのほうは、今頃はどうしてるんだろうな」
「どいつらだ?」
と、魔術士。
空とぼけているわけでもないだろうが、こいつはうめいた。
「俺が知っててお前が知ってる連中なんてのはそう多くないだろうがよ」
「まあ、そうだな」
「気にはならないのか?」
「どうだろうな。こんな時勢じゃ、無事でいるかどうかなんてことから気にしないとならない」
そんな言い方をした。
2008.12.07.
そういえば最近、連続ドラマのDVDボックス的なもの買ってないなーと気づいて、急速に飢え始めてます時の不定期連載。なんかいいのないかなー。
そろそろいいかと、こいつは席を立ちかけた――と、ちょうどそれを見計らってか、魔術士が言ってくる。
「教師のお前に訊いてもいいか」
「なんだよ」
奇妙な物言いに、面食らう。
無論、教師として問われれば拒むことはない。それが生業だ。
だがそれでも、魔術士が視線を下げたその表情を見た時には、それがよほどの難問だとは予測した。
「死んだ人間を生き返らせるのは、どれだけの罪かな」
随分と突拍子のない話に、こいつはしばし、眉間に皺を寄せた。
もっとも、予想したほどの難問ではなかったかもしれない――明白な問題だ。
「そりゃまあ、誉められたことじゃないわな」
「医者は人を治す。それは罪じゃない」
力の入らない反駁をする魔術士に、こいつは告げた。
「医者は、困難であっても可能なことを可能にしてるんだ。不可能を可能にすんのは、倫理を犯す罪だ。人を殺したり、かっぱらったりとはまた次元の違う話さ。なんで罪かといやあ、それが不可能で、不可能だから大事にしてきたってもんが山ほどあるからだ」
これまで延々と、あんな話をしてきた当の魔王が、分かっていないということはなかろう――議論がしたいわけでないのは感じ取れた。どうすべきかは分かった上で、ただ話したいだけだ。だから前置きしたのだろう。教師のお前に、と。
ふと、気がついた。この魔術士は、本当は自分自身に言い聞かせようとしていたのかもしれない。
当人に意図があるのならその手助けをする――教師はそうあるものだ。こいつは相手の目を見て、つぶやいた。
「……可能なのか?」
魔王の目――伝説では青色に輝くというが――は、今は通常の色から変わらないまま、否定した。
「試したことはない」
「本当に? 慎重に答えろよ。誓えるか?」
「ああ、幸いにもな。魔王の力はいまだかつて完全に制御されたことはないんだ。魔王自身、制御しなかった。できなかったのかもな。天使と悪魔だよ。無制限の力ってのは二律背反の悪夢だ。第二世界図塔の魔術が成功したのもまぐれ以外の何物でもない――必要数の術者にまったく足りてなかったし、成功率はいいとこ一割もなかったろう。その術者が言ってたよ。あまりに成算が低いから聖域はこのプランを採用しないだろうってな。事実、聖域は別の方法を取ろうとしてた。純然たる危機回避策として考えたら、魔王の召還ってのはあの時一番成功率の低い賭けだった」
2008.12.08.
とりあえず今回でまた小休止。時の不定期連載。
苦い思い出か。あるいは今なお続く苦い思いか。そいつは目を伏せた。
「それでも、誘惑には駆られる。自分の――したことを、洗い流したくなる。全部。全部だ。それだけじゃない。今やってるような、こんな準備も手間もいらない。もしまた制御さえできれば、もっと、全部できる」
と、手を見せた。
それが血まみれになっているわけでもない。それでも緩やかに丸められた指は、それが成し遂げたことを物語っていた。死を目前にした安定を回避する代わりに、世界に変化と苦難をもたらした。
気休めは通じまい。こいつは素直に告げるしかなかった。
「俺にゃ止める権利も義理もねぇが、それをしたら、もうお前は人間じゃないし、お前に気に入られなけりゃ生きてもいけない世界に生きる俺たちも人間とは言えねえな。俺に言えるのはそんだけだ」
そう答える。
魔術士は、用意してあったように、すぐにこう言った。
「あいつの腕も治せる」
いや。用意してあったのではない。常に考えざるを得ないのだろう。
なかなかに良いボールを投げてくる――怯まずにはいさせない話だ。こいつはつい、笑みを漏らした。教師としては、動揺したとしても外に出すべきではないが。
どのみち、その困惑もすぐに隠すと、こいつは告げた。
「あいつは死の教師だ。魔術みたいなもんを使ってまで治して欲しがっているかどうか、俺やお前が勝手に決めるべきじゃないし、あいつを誘惑する権利もない。あいつのほうから言い出したら、それから考えろ。ただし、必ず相応の対価を求めろよ。他人の誇りを奪える立場にいるなら、熟慮しろ」
「そうだな」
そいつは、目を閉じてつぶやいた。付け加える。
「ありがとう」
少なくとも、荷のひとつくらいは肩から下りたのだろう。
(そうならいいけどな)
と心配しかけて、また首を振る。
「ガラじゃねぇんだよ。本当にな」
もう一度、魔王の部屋を見回して――こいつは外に出た。閉じる扉の向こう側で、タイプライターの音が再開した。
2008.12.09.
わたしは子供向けのカートゥーンが結構好きで、よく見るんですが。
季節イベントってやつなんでしょうか。カートゥーンネットワークで、CM中にクリスマスクイズみたいなのやってます。応募したら正解者から抽選でプレゼント的な。
このクイズキャンペーン、確か去年は、なんていうか子供向けだからかお約束か「答えが明らかに分かる3択クイズ」でした。
今年は「答えが明らかに分かる3択クイズ」な上、その答えを連呼してました。
来年どうなるのか、今から気になってます。
2008.12.10.
PSPを立てるスタンドとかあるといいのにと思っていたら、友達が「それ既にある」と教えてくれました。

しかもメーカー純正品だ!
2008.12.11.
ティーバッグでお茶を飲んでいます。
で、使ったティーバッグはすぐ捨てればいいものを、面倒くさいんでティーバッグをいったん置いておく用のお皿を用意してあります。
あとで捨てるわけですが。
ただ、そのティーバッグ置きの害(?)というのがあって。
またお茶を入れようとした時、使用済みのティーバッグがそこにあると、ついまた使いたくなっちゃうんですよね。
結果は分かってるだろー、と思いつつ、使用済みのティーバッグ使ってしまって、薄ーいお茶を飲む羽目になるわけです。
ティーバッグについて語っていると、いつか噛んでティーバックって言ってしまいそうな、ほのかなハラハラ感があるのはわたしだけでしょうか。
2008.12.12.
今日は不意打ちで結構な距離を歩いて、自分の体力のなさを思い知りました。こんな歩けなかったかな、わたし……
どうもこの頃、足が細くなってしまった気がします。臑マッチョとか言ってたのってもう一昨年の話でしたっけ。
いったん大幅に減量してから約2年。当時、減量の無理が祟って体調崩したりしたので、少し余裕を持って微増してたんですけど、なんか微増からさらに微増した気配もあり。
また減量して調整するかなー。
どうしてか、ダイエットって言い方があんまり好きじゃありません。なんか気軽に失敗しそうな響きを感じるんですよね。ダイエットなら失敗しても仕方ないかっていう。
こんな感じで、深い理由もなく直感的に避けてる語が結構あります。一生懸命とか。一所懸命のほうを使うようにしてます。
他にもいくつかあったと思うんですが、疲れ果てて思い出せない……
ああ弱すぎ。スクワットするかー。明日からね。うん。明日から。
2008.12.13.
久々にスクワットしてみたら、エネルギーを全部使い切りました。
弱い!弱すぎる!たぶんドラキーに勝てん!
2008.12.14.
1日遅れの筋肉痛でさらに弱体化しました。やられてお城に帰ったら、何故か王様に武器取り上げられた気分です。こんぼう返せよ王様ー、みたいな。
これってアレですよね。歳も取ったし身体なまりすぎて、回復に一日以上かかってるってことですよね。多分。今日寝てようやく回復、なのかな。
こんな疲れ取れてない状態で今日さらにスクワットしたわけですが、もう足フラフラになって、立ってるっていうより頼りない生き物に乗ってる感じです。
歩こうとしてるのにイメージしてる歩幅と違って、思うように進めなかったりします。意識はっきりしてるのに夢心地です。わりと楽しいです。
まあそんなスクワット日記でした。
手軽に楽しめるので、みなさんも30歳を過ぎたら筋肉痛スクワット、試してみてください。マジ痛いのがやや難点ですが。
2008.12.15.
今日、帰り道で。
マツモトキヨシの前を通りかかった時、奇麗めな感じの女の子が品物を眺めていて。
ふと、あ、いいもの見つけた、という嬉しげな顔で、つつつっとカニ歩きで棚に近寄っていった仕草が可愛かったです。
カニ歩きっていうのはなにげに可愛い動作だと思うんですけど、説明しようと思うと難しいです。
やっぱカニっていうのが良くないんですかね。甲殻類だし。歩くカニ缶だし。なんか間の抜けた気配がしちゃいます。
他の呼び方を見つけるべきなんでしょうか。
横歩きとか? 忍者っぽい。しかも『蟹の横歩き』だし。つまり忍者っぽく、かつカニっぽい。そんな言葉がこの世にあろうとは。
どうでもいいことって意外と難題です。多分、どうでもいいからなんでしょうけれど。なので、どうでもいいことはどうでもいいまま気にするようにしています。
2008.12.16.
喫茶店の閉店間際。
さー帰るかーというところで、床に100円玉が落ちているのを見かけました。
物理的奇跡でテレポートしてきたか自然発生した可能性はあんまり高くないので、多分誰かが落としたものなのだろうと推測。
絨毯なので気づかなかったんでしょうね。
こんな時どうしたものか、ちょっと迷います。
これが100万円だったら考えるまでもないんですよね。まあ大抵落とし主が出てくるでしょうから。お店にでも預ければいいわけです。
1万円だったらまた別種の悩みが出てくるのかな。良心を天秤にかけて、どうする?盗んじゃうか?でもこれ落とし主は結構ショックだよなきっと。と迷うに違いない。
でも所詮100円じゃあ葛藤するような額でもなく。
持って帰っちゃっても困る人もいないだろうけど、100円くらいのために後ろ暗い気分になるのはかえって割に合わないし。
前日の話と似てますが、大した額じゃないだけに悩みどころがピンと来なくて、かえってよく分からないみたいな。
結局、お店の人に「これ落ちてたんで」と預けたんですが。
そういえばここ2、3ヶ月で3度くらい、同じことしてるなあと思い出しました。
ラーメン屋の券売機に残ってたお釣りとか、やっぱり床に落ちてた小銭とか。
なんでしょうかね。流行ってるんですかね、小銭忘れ。わたし世事に疎いから知らないだけなんでしょうか。
だって今まで、そうそうなかったですよ、そんなこと。なのに急に頻度上がり過ぎですよ。
なにげに小銭を配置してその場を去り「ケッケッケッ。今頃見つけたヤツは、100円くらいのことでどうしたらいいのかモヤモヤしてるに違いないぜ」みたいに含み笑いする的な競技なんでしょうか。
あり得る。テレポートか自然発生くらいの可能性であり得る。
2008.12.17.
なんか立て続けに2回、自転車に轢かれそうになりました。
それがどちらも黒いダウンジャケットで、こっちを見ることもなく一目散に走り去っていったわけですが。
わたしも伊達に歳を取って筋肉痛に喘いでるんじゃないですからね、どういうことか即座に理解しましたよ。
黒いダウンジャケット総会みたいなのがあって、それに遅刻しそうなんだなと。
ただ問題はですよ。わたしも黒いダウンジャケット着てたんですよ。
なんでわたしは呼ばれてないのか、それが問題じゃないですか。
ハブですか。そうですかそういう会なんですか。黒いダウンジャケットは平等なんじゃないんですか。黒くて中に羽根が入ってりゃそれで良いんじゃないですか。
あの頃は違ってた。みんなで着ぶくれしてりゃそれで幸せだった。なのに……なのに!
こんなふうに妄想で恨まれたくなかったら、歩道でスピードは出さないでください。マジで。
2008.12.18.
Lisa Miskovsky の Still Alive が良い曲で一日中聞いてます。今も聞いてます。
歌詞なんて読もうものなら泣かずにいられない。いやまあ実際には泣いてないですが泣かずにいられない。時の不定期連載。
荒野は果てなく続くかと思える。
地平の色、空の色。どこまでも変わらない。見据える前方と、振り返った後方と。
ここまで同じなら、目を閉じて一回転すれば、どこから来てどこへ進むのかも見失ってしまうだろう。黄塵は吹き止んでいたが、長らく砂の風に晒された大地は柔らかく、足跡もすぐに消えてしまう。
それでもそいつが、迷いもなく一直線に進んでいくのは不思議といえば不思議だった。真っ直ぐに歩くことに自信があるのか、昼間でも星が見えるのか――《塔》のあいつが言うネットワークとかなんとか、そんなものの助けを得ているのか、分からないが。
あるいは単に頓着していないだけかもしれない。そいつの後を二十歩分ほど遅れてついて歩きながら、こいつは疑念を弄んだ。
(もう三日……)
こうして一切の会話もなく、ずっと歩き続けている。焦らずとも、そいつが特に自分を振り切ろうとしないことについては、ようやく信じられそうになっていた。
孤独感はない。危険人物の後をつけていて、それどころではなかった。不安感? こうまで隈無く不安にばかり取り囲まれると、実感を通り越して夢でも見ているようになってくる。
キムラックはもとより荒廃した土地だ。
こんなところで、よく人が生きられるものだと思う――と思うのは、自分が街育ちだからだろうか。この土地に暮らしていたのはキムラック人だけだ。なにをどれだけ信じれば、そんなことが可能になるのだろう。以前には思わなかったことだが、今はその疑問が頭から離れない。
あれから騎士隊と出くわすことはなかった。偶然とも思えないものの、そいつが道を選んでいる様子もない。ただ無頓着に進んでいくだけだ。そいつが歩く限りついていき、立ち止まれば休む。その繰り返しだった。
警戒心から、休む場所には距離を置いた。具体的な身の危険を覚えたわけではない。そいつはこいつなど存在もしていないかのように振る舞っていた。そいつに置き去りにされることもまた警戒し、寝入るわけにもいかず、こいつはたちまち憔悴した。
2008.12.19.
カレーにはナン派なんですが、ついナン単体で食べたくなってしまう時の不定期連載。
やがて、起きているのと仮眠の境目も怪しくなっていった。朦朧と混濁する情景に、人の姿が映る。夜なのか朝なのか、空は緑色だ――この色彩については、強く意識した。おかしいと感じる。緑色の空などありはしない。夢だと思っても目が覚めない。
(なんで起きられないの?)
はたと理解した。
既に目を開けている。だから起きようがない。
身体を捻ったのはなにかの反射行動か。とにかく意志はなかった。こいつは手のとどくところに置いてある剣の柄を掴み取った。鞘から抜く手間もかけず、そのまま前方に突き出す。
目の前にいたそいつは、頭を横にずらしてそれをかわした。
非難も抗議も、威嚇すらなく、そいつはただその場のとどまってこいつを見下ろしていた。こいつは剣を手に、状況を確認した――何重にも布にくるんだディープ・ドラゴンは無事で、すぐ近くに寝ている。自分とそいつ以外、あたりに気配はない。夜はまだ明けていない。
「なにか用……?」
警戒態勢はそのままに、こいつは問いかけた。
そいつは少し、奇妙そうな顔をした。
「俺を訪ねてきたのはそっちだろう」
「三日も経ってから言うこと?」
だが、まさにそういうつもりなのだろう。
あまりにもどうでも良かったため、今さら気づいたとでもいうのか。そいつはまさに今さらの問いを口にしてきた。
「どうして俺を頼ろうと思った?」
「頼るつもりなんてない」
こいつはつぶやくと、剣を置いた。
夜営の場所に選んだのは、荒野の窪地だった。夜営といっても風に当たらない場所を見つけて仮眠するだけだ。遮蔽物もない荒野では、火を焚けば数キロ以内で目立つ。会話も難しい――こいつは自然と声をひそめた。
「あなたを利用するのが、一番確実にキムラックを抜ける方法だって踏んだだけよ」
そいつは別段の感慨もなく、こう言ってきた。
「そうかもしれないが、俺は奴を殺すぞ。そういう任務だ」
2008.12.20.
晴れて24日と25日両方とも仕事の打ち合わせが入った記念。時の不定期連載。
「それは阻止する」
これもまた意味を感じなかったようだ。淡々と、
「なら、お前のほうが先に死ぬことになるな」
「そうならないために一年を費やした。あいつのところで」
いくら繰り返そうとも虚勢に聞こえることは分かっていたし、また実際に虚勢以外のなんなのかという自問にも答えがなかったが。
ただ、持ち出した名前については、そいつはわずかに反応した。ああ、とつぶやく。
「あいつか。あいつはそれなりに手強い魔術士だ。だがお前は魔術士ではない」
「手強くもない?」
「考慮する意味がない」
素っ気なく言うものの、こう付け加えてきた。
「ただし、それがディープ・ドラゴンなのだとすれば、脅威だ」
夜気から体温を守るために、布に埋もれているディープ・ドラゴンへと視線を落とす。
こいつは、つい嫌味を言わずにいられなかった。
「違うはずなんでしょう?」
「この三日間観察したが、一度も目を開けていない」
「眠ったままよ」
そいつがなにげなく観察と言ったことに――いつ見ていたというのだろう?――ぞっとしたものの、それでもこの件については、どんなものでも情報が欲しかった。話に付き合わざるを得ない。
「生まれたばかりのディープ・ドラゴンがどういう感じなのか分からないから、これが普通なのか知らないけれど。ずっと眠ったまま。なんにも食べないでも生きてるし、ディープ・ドラゴンなのは間違いないと思うけれど」
「ディープ・ドラゴン種族の生態を知る者はいない。遭遇すれば殺される」
(あなたみたいよね)
そう思うものの口に出さなかったのは、それが本当に皮肉でもなんでもなくその通りなのかもしれないと気づいてしまったからだ。
2008.12.21.
無性に白菜を食べたい時の不定期連載。
確認したかったのはそんなことか。そいつは話を終えて、身体半分ほどきびすを返しかけた。が、そこで動きを止める。
半身を残して、そいつは問いかけてきた。
「何故、奴に会いたい」
「何故って?」
「奴は大罪人だ。秩序を崩壊させた」
荒野を風が吹き抜ける音が、ちょうど鳴り響いた。
大地の悲鳴のようだ。今この土地で、大地のすべてで行われていることを非難しているようにも聞こえる。
こいつは、睨むほど強くでもなく、相手を見やった。
「やろうとしてたことは、あなたも同じでしょう」
言い返すが、そいつは首を横に振る。
「いいや。俺の意図は逆だった。それに少なくとも、俺は施政者の承認を得ていた」
「だからよ」
つぶやく。
放った言葉には、思った以上の意味がある――自分の口から出た声音に、そんなことを意識した。
「?」
言葉の複雑さに、そいつが困惑するのが見て取れる。
手助けも後押しもせず、突き放す心地で、続ける。
「あの人もそう思っているかもしれないから。会いに行くの」
そいつがどう反応するのかなど気にしない。突き放すというのはそういうことだ。
だがそいつが立ち去るのを、こいつはちらりと見送った。そいつはなにも言うことなく、ただ歩いて遠ざかっていく。夜の暗さで、背中の表情があったとしても読めはしない。
こいつはディープ・ドラゴンの背中を撫でながら、うつむいた。出発までに、またさっきと同じ夢を何度か見るだろう。
2008.12.22.
開けようとした扉を足で蹴って閉じてしまい顔面をぶつけ、指と顔が同時に痛いという狙ってもなかなかできないダメージを負いました。時の不定期連載。
陰鬱な旅は続いた。あるいは繰り返されたのか。どこかで途切れているのだとしてもその継ぎ目も分からないほど単調で、なにもない。
息をしているのも忘れるが、ふと苦しくなって思い出す。歩く速さが上がっていたらしい――前を歩くそいつが速度を上げていたのだ。なにか理由があってのことなのかと、こいつは後方を見やった。黄色がかった土色の平面にはなにもなかった。
だが数時間して、変化があった。
(あれは……)
遙か後方。くすんだ荒野の色合いに、ぽつんと浮き上がった点が見える。
人の姿だ。
はっきりとはしない。だが間違いないだろう。ぐったりとこいつは頭を抱えた――追跡されている。となれば騎士軍か、武装盗賊か。少なくとも無害な旅人などではあり得ない。
見えなかったものが見えてきたということは、つまり追いつかれつつあるということでもある。疲労の差だろう。
と。
こいつは、足を止めた。近づいているのは後ろの追っ手だけではない。前を進んでいたそいつもまた次第に速度を落として、ついには立ち止まった。それどころかくるりと方向転換し、あともどりしてくる。
「……なに?」
訊ねた。
が、そいつは自分に用があって近づいてきているのではない。それは分かっていた。そいつはこいつよりもっと遠くを見やっていた。きっと、追っ手のほうだ。
無視されるかと思っていたのだが、そいつはすれ違う瞬間に、ぽつりと言い残していった。
「振り切れそうにない。殲滅しておく」
2008.12.23.
急に雨降ってずぶ濡れって久しぶりな気がします時の不定期連載。
「ちょっと!」
声をあげて、追うように振り返る。そいつの腕を掴んで制止しようとしたが手はとどかなかった。
「なんだ?」
別段、急いではいないからか。そいつは肩越しに返事した。なにを考えているにせよ、それを感じさせない眼差しで。
こいつは思わず、息を呑んだ。こんなことまで確認しないとならないとは。
「殺しに行くっていうわけ?」
「ほうっておいても六時間以内に追いつかれる。こちらから出向けば二時間で遭遇する。こちらが疲れ切る前に片付けるほうが安全だから、早く済ませる」
「『安全』ってそんな使い方するの、初めて聞いた」
「言っている意味が分からん」
付き合うまでもないということだろう。そいつはまた歩き出す。
一瞬躊躇したものの、こいつもそいつについていった。
「追ってきているのは騎士なの?」
「ああ。軍人だ。死ぬのも仕事だ」
淡々と、そいつがつぶやく。
「補償もある。先に言っておくが、奴らの延命を俺に訴えるな。無意味だ」
「返り討ちになるなんて考えてもいないって言いぐさね」
「いや。常に考慮している。死なないよう対策を講じるためには不可欠だ」
「そういうことじゃなくて――」
「それでも避けられない死が生じた場合のことは、心配しても仕方ない。俺には遺族補償はないが、それは特に困ることではない」
まったくの減らず口だ。そいつがひたすら本気で言っているのが少々の違いだが。
2008.12.24.
かぼちゃ好きなわたしは基本、クリスマスよりハロウィン派。もしくは冬至派。時の不定期連載。
こいつは声を荒らげた。
「わたしは困るのよ! こんなとこで道案内をなくしちゃったら」
「俺の知ったことではないし、お前こそ、俺が必ず負けるような言いぐさだ」
「どうかしらね。あいつらと遭遇するより前に倒れて死んだって驚きゃしないけど」
追いかけるのを止め、囁く。
軽い賭けだったが功を奏した。そいつも立ち止まったのだ。
口早に続ける。
「あなた、この三日間、なにも食べてない。あの酒場でだって、まともなものを口にしてたと思えないけどね。半病人か半死人かどっちでもいいけど、毎日のように魔術士相手の実戦を続けてやる気も十分の騎士を何人相手にできるつもり?」
「…………」
そいつは答えない。だが聞いてはいる。
意を決してこいつは続けた。
「あいつが心配してた。あなた、もしかして、あの時以来――」
振り向いてきたその目に見据えられて、吐きかけた言葉を呑み込む。
危なかった――と、直感的に思う。言い切っていたらどんなことになっていたやら。
一瞬後には、見たものが錯覚だったのではと思うほど、そいつは感情のないいつもの表情にもどっていた。
「どのみち、今のペースでは追いつかれる」
「わたしはもう少し速度を上げても大丈夫」
「俺は無理だ」
存外にあっさりと、そいつは認めてみせた。