小紙のリレーエッセー「陽(ひ)だまり」に、「雪は匂(にお)うもの」とあった。北陸の人なら分かる感覚である 鼻でかぐというより、皮膚全体が雪の気配を感知する。冬空を見上げて大気に触れると、それが分かる。夜中に目を覚ませば、窓の外をのぞかなくとも雪の気配を知る。私たちは、不思議なレーダーを備えている 「こな雪、つぶ雪、わた雪、みづ雪…」と土地の雪の名を並べたのは、津軽に生まれた作家の太宰治。少し呼び名は違っても、北陸人ならどんな雪なのか、目に浮かぶ。暖国の人には分からぬ美しい日本語である 「寒ブリ水揚げ」の記事と写真が、ようやく紙面に登場するようになった。ことしは大物の到来が遅れている。暮れの大事な贈答品である。かぶらずしの出来を心配する声も聞かれる。そういえば、「ブリ起こし」の雪雷も少ない。美味はほしいが、雪は遠慮したい。身勝手というものだろう。厳しい冬だから美味をもたらす。それがこの土地のルールである が、身勝手は承知。安らぎのひとときを迎える聖夜には、雪の彩りがふさわしい。冬空にそのにおいは漂うだろうか。
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