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社説:視点・未曾有08 政権放り出し トップ育成システムの…=論説委員・松田喬和

 ◇トップ育成システムの崩壊

 昨年に続き今年も政権が交代した。07年の参院選で自民党は敗北し、衆院と参院で多数派が異なる「ねじれ国会」への有効な対応策が見いだせず、事実上の「政権放り出し」だった。

 平成になってから、13人の首相が誕生しているが、2代続けてこれ程短期だったのは、非自民の細川護熙、羽田孜首相以来だ。リリーフに立った麻生太郎首相も、毎日新聞の調査では誕生後わずか1カ月で不支持が支持を上回り、その後も支持率の下落に歯止めはかからない。

 55年の保守合同で誕生した自民党の歴史は派閥抗争史でもあった。「党中党」的な派閥は金権政治の温床となるだけでなく、非公式な集団ながら政策決定過程にも関与し、不透明な政治を増長させた。

 自民党の分裂を契機に93年に非自民政権が生まれ、翌年には衆院に小選挙区制が導入された。党営選挙が当たり前になり、派閥の出番は少なくなり、急速に弱体化した。派閥の領袖が総理・総裁候補の一大要件ではなくなった。

 半面、派閥の衰退で自民党の指導者育成機能も失われた。派閥内での“階級”を昇格する間に重要閣僚や党の要職をこなし、リーダーとしての資質は磨かれた。ところが、派閥に代わる新たな育成システムも出現していない。安倍晋三元首相も福田康夫前首相も、閣僚経験は官房長官だけだ。

 議院内閣制のわが国では、米大統領のように若手リーダーの衝撃的なデビューは極めて困難な環境にある。人材発掘には、米大統領選とまではいかなくとも、総裁選期間を延長し、候補者の資質を多くの国民に吟味してもらうことも一案だ。

 最近の自民党内では派閥よりも世代間の確執が目立つ。反麻生的な言動が際立ちオールド世代から批判を浴びている塩崎恭久元官房長官は、幕末の「安政の大獄」を例に引き、反論する。「弾圧で結果的には人材が欠如し、倒幕を早めた」と。「中央公論」12月号に掲載された野口武彦氏の「政体の末期に人材が払底するのはなぜか」を連想、読み直した。

 幕末では老中職が次々に取り換えられた。続出する平成期の短期政権を対比し、野口氏は「政体の末期にはまず支配層から人材が払底する」「一つの政体が存続するか否かは、支配層の自己修繕能力の有無に関(かか)わっている」と結論付ける。

 世論調査に表れた「軽い人気」を選出基準とする総裁選は未曽有の危機を招いただけで、限界だ。自民党の自己修繕能力が大いに問われる。

毎日新聞 2008年12月24日 東京朝刊

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