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【書評】『バッタに抱かれて』戸渡阿見著
前作『蜥蜴(とかげ)』で鮮烈なイメージを与えた著者の第2弾短編小説集。まず、「読んだことのない」奇妙奇天烈(きてれつ)な物語の設定に度肝を抜かれる。例えば、美容院で出会ったメスの白クマと男性が恋に落ちる「白熊」や、同棲(どうせい)していたバッタが女性の元から突然いなくなる「バッタに抱かれて」など。しかしながら、擬人化された動物や虫が自然な流れで物語を盛り上げ、物語に隠された著者のメッセージがかいま見える。次第に、固定概念を根底から崩して読み進めることが楽しくさえなってくる。
圧巻は45ページにわたる「解説観賞」。本文より解説文の方が長い作品も。「解説観賞」のラストでカフカ作品を「独特の不条理さに満ちている」としているが、この言葉こそ本書にぴったりの褒め言葉だろう。(たちばな出版・1050円)