2008-08-29 「相続させる」遺言

最高裁判所第二小法廷平成3年4月19日判決が出てから,「遺贈」の遺言書ではなく,「相続させる」遺言書が主流になっています。
私がこれまでに作成に関与した遺言書もすべて「相続させる」という文言の入った遺言書です。
「相続させる」遺言書では,相続登記する場合でも,遺言執行者は不要で,「相続させる」旨指定された相続人が単独で登記することができます。
「相続させる」遺言による承継は,特定承継ではなく一般承継ですから,対抗要件なしに第三者に対抗できます。
「相続させる」遺言に代襲相続があるとした東京高裁平成18年6月29日判決があります。
最高裁判所第二小法廷平成3年4月19日判決
被相続人の遺産の承継関係に関する遺言については、遺言書において表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきものであるところ、遺言者は、各相続人との関係にあっては、その者と各相続人との身分関係及び生活関係、各相続人の現在及び将来の生活状況及び資力その他の経済関係、特定の不動産その他の遺産についての特定の相続人のかかわりあいの関係等各般の事情を配慮して遺言をするのであるから、遺言書において特定の遺産を特定の相続人に「相続させる」趣旨の遺言者の意思が表明されている場合、当該相続人も当該遺産を他の共同相続人と共にではあるが当然相続する地位にあることにかんがみれば、遺言者の意思は、右の各般の事情を配慮して、当該遺産を当該相続人をして、他の共同相続人と共にではなくして、単独で相続させようとする趣旨のものと解するのが当然の合理的な意思解釈というべきであり、遺言書の記載から、その趣旨が遺贈であることが明らかであるか又は遺贈と解すべき特段の事情がない限り、遺贈と解すべきではない。そして、右の「相続させる」趣旨の遺言、すなわち、特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させようとする遺言は、前記の各般の事情を配慮しての被相続人の意思として当然あり得る合理的な遺産の分割の方法を定めるものであって、民法九〇八条において被相続人が遺言で遺産の分割の方法を定めることができるとしているのも、遺産の分割の方法として、このような特定の遺産を特定の相続人に単独で相続により承継させることをも遺言で定めることを可能にするために外ならない。したがって、右の「相続させる」趣旨の遺言は、正に同条にいう遺産の分割の方法を定めた遺言であり、他の共同相続人も右の遺言に拘束され、これと異なる遺産分割の協議、さらには審判もなし得ないのであるから、このような遺言にあっては、遺言者の意思に合致するものとして、遺産の一部である当該遺産を当該相続人に帰属させる遺産の一部の分割がなされたのと同様の遺産の承継関係を生ぜしめるものであり、当該遺言において相続による承継を当該相続人の受諾の意思表示にかからせたなどの特段の事情のない限り、何らの行為を要せずして、被相続人の死亡の時(遺言の効力の生じた時)に直ちに当該遺産が当該相続人に相続により承継されるものと解すべきである。そしてその場合、遺産分割の協議又は審判においては、当該遺産の承継を参酌して残余の遺産の分割がされることはいうまでもないとしても、当該遺産については、右の協議又は審判を経る余地はないものというべきである。もっとも、そのような場合においても、当該特定の相続人はなお相続の放棄の自由を有するのであるから、その者が所定の相続の放棄をしたときは、さかのぼって当該遺産がその者に相続されなかったことになるのはもちろんであり、また、場合によっては、他の相続人の遺留分減殺請求権の行使を妨げるものではない。
原審の適法に確定した事実関係の下では前記特段の事情はないというべきであり、被上告人が前記各土地の所有権ないし共有持分を相続により取得したとした原判決の判断は、結論において正当として是認することができる。
東京高裁平成18年6月29日判決
裁判所の判断
ところで、相続人に対し遺産分割方法の指定がされることによって、当該相続人は、相続の内容として、特定の遺産を取得することができる地位を取得することになり、その効果として被相続人の死亡とともに当該財産を取得することになる。そして、当該相続人が相続開始時に死亡していた時は、その子が代襲相続によりその地位を相続するものというべきである。
すなわち、代襲相続は、被相続人が死亡する前に相続人に死亡や廃除・欠格といった代襲原因が発生した場合、相続における衡平の観点から相続人の有していた相続と同じ割合の相続分を代襲相続人に取得させるのであり、代襲相続人が取得する相続分は相続人から承継して取得するものではなく、直接被相続人に対する代襲相続人の相続分として取得するものである。そうすると、相続人に対する遺産分割方法の指定による相続がされる場合においても、この指定により同相続人の相続の内容が定められたにすぎず、その相続は法定相続分による相続と性質が異なるものではなく、代襲相続人に相続させるとする規定が適用ないし準用されると解するのが相当である。
これと異なり、被相続人が遺贈をした時は、受遺者の死亡により遺贈の効力が失われるが(民法九九四条一項)、遺贈は、相続人のみならず第三者に対しても行うことができる財産処分であって、その性質から見て、とりわけ受遺者が相続人でない場合は、類型的に被相続人と受遺者との間の特別な関係を基礎とするものと解され、受遺者が被相続人よりも先に死亡したからといって、被相続人がその子に対しても遺贈する趣旨と解することができないものであるから、遺贈が効力を失うのであり、このようにすることが、被相続人の意思に合致するというべきであるし、相続における衡平を害することもないのである。他方、遺産分割方法の指定は相続であり、相続の法理に従い代襲相続を認めることこそが、代襲相続制度を定めた法の趣旨に沿うものであり、相続人間の衡平を損なうことなく、被相続人の意思にも合致することは、法定相続において代襲相続が行われることからして当然というべきである。遺産分割方法の指定がされた場合を遺贈に準じて扱うべきものではない。