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【埼玉】周産期医療 現場からの報告<中>母体救命センター2008年12月24日
「脳内出血の妊婦が次々に受け入れを断られ死亡した東京のような事故は、県内で絶対に起こしたくない」 川越市鴨田辻道町の埼玉医科大総合医療センター。県幹部と同医療センター幹部が今月十二日、県内での母体搬送をどのようにすべきか、最終的に詰めていた。 この時、県が本年度中に設置を予定していた「母体搬送コントロールセンター(仮称)」構想は暗礁に乗り上げていた。「だがいま何もしないわけにはいかない」という認識では一致。命が危険な妊婦を基本的に必ず受け入れる「母体救命コントロールセンター」の設置が正式決定した。 県は当初、一般の産科では扱いきれないハイリスク分娩(ぶんべん)時の安全確保のため、救急搬送が必要な母体の受け入れ先を調整する母体搬送センター設置を計画していた。産科医が母体を診ながら受け入れ病院を探しているのでは医師に負担がかかる。同センターが病院探しを担当し、搬送先が決まるまで医師は母体への対応に集中できるシステムをつくろうとしていた。 県の構想は、同センターに助産師が詰め、医師から病状を聞いた上で受け入れ先を決めるというもの。七月ごろの稼働を念頭に、五月からは医師会とも協議を重ねた。ところが医師らからは「母体の命にかかわる病状を助産師が判断できるのか」という反発も。一方で医師が詰めるとなると「ただでさえぎりぎりの医師。もう業務は増やせない」という意見も出た。 ずるずると年末を迎えた。「少なくとも東京のようなケースは避けたい」との思いから、たどり着いたのが母体救命センターだ。 総合周産期母子医療センターと高度救命救急医療センター、ドクターヘリ拠点施設の三つを兼ね備える埼玉医大総合医療センターと県が、高度救命救急と周産期医療の双方をカバーする仕組みをつくることで考えが一致した。 ただ、同医療センターも医師数がぎりぎりの状況で新生児集中治療室(NICU)も十分とは言えない。高度医療の不必要な患者まで搬送されれば業務がパンクすることは必至だ。 県は十六日以降、医師会など関係機関に頭を下げて走り回り搬送基準の徹底などを求めた。「まずかかりつけ医をつくってほしい。そうでないと、病状を把握して正確な搬送ができなくなる」と県民にも呼び掛ける。 母体救命センターの運用開始を二十四日に控え、同医療センターの関博之教授の表情は厳しいまま。「何でも『命にかかわります』などと言って送ってこられても困る。そんなことが一回でもあればすぐやめる」
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