遺贈、死因贈与と相続 ![]()
神戸の行政書士 すがぬま法務事務所
「相続」と「遺贈」の違いはなんでしょうか。
相続とは、なんら手続きを経ることなく当然に、
被相続人の財産が相続人に引継がれることをいい
ます。
これに対し、遺贈というのは、遺言によって、遺言
者の財産の全部または一部を贈与することをいいます。
一般的に遺言書では相続人以外の者に遺産を与え
る場合に「遺贈する」という表現をしますが、相続人に
対しても遺贈することはできます。
遺贈する者を 遺贈者 といい、遺贈によって利益を受ける者を 受贈者 といいます。
受遺者は、遺言の効力発生の時に生存していなければなりませんので、遺言者の死亡する前に受遺者が
死亡している時は、遺贈の効力は生じません。
遺贈の種類
一つは、「全財産を贈与する」とか、「遺産の4分の1を与える」というように一定の割合を示してする遺贈を
包括遺贈 といい、一つは、「甲土地を妻Bに与える」というように特定の財産を指定してする遺贈を 特定遺
贈 といいます。
※注意すべきは、包括遺贈は相続財産の個々の物件に対してのものではなく、全体に対する割合です。
たとえば、A土地の2分の1を遺贈するというのは、全体に対する割合ではなく、特定の物件に対する
割合ですから、これは特定遺贈(特定物の不特定遺贈)です。
法定相続人でない者への包括遺贈の場合の場合、遺産分割協議に受遺者も加わることになります。
そのため、他の相続人から反感を招くことも往々にしてありますので、特定遺贈にしておいた方がもめな
いといえます。
遺贈の承認・放棄
包括受遺者は「相続人と同一の権利義務を有する」とされていますので、包括遺贈は相続の承認・放棄
に準じて取り扱われますので、遺贈を放棄するには、相続人と同じく3ヶ月以内 に家庭裁判所に申述しな
ければなりません。
これに対し、特定遺贈の場合の受遺者は、遺言者の死亡後いつでも 遺贈を放棄することができます。
家庭裁判所への申述は要りません。
※特定遺贈の放棄は、遺贈義務者(相続人)に対する意思表示で行います。遺言執行者がいるときは、
遺言執行者が遺贈義務者となります。 意思表示は通常、配達証明付内容証明郵便によって行い
ます。
負担付遺贈 たとえば、「自分の土地・建物を遺贈する代わりに、妻が死亡するまで扶養すること」と
いった遺言を残すことです。このように、受遺者となる者に、相続人や第三者のために一定の負担を課す
のが特長ですが、受遺者は、遺贈の目的の価格を超えない限度でその負担を履行すればよいことになっ
ています。
受遺者が負担を履行しない場合、他の相続人が、相当の期間を定めて履行を催促し、その期間内に履
行がないときは、家庭裁判所に遺言の取消を請求できることになっています。
負担付遺贈のほか、条件付、期限付の遺贈も可能です。
死 因 贈 与
遺贈と似たものに 死因贈与 というものがあります。これは、「自分が死んだら乙土地を与える」とい
う「契約」です。契約ですから相手(受贈者)の承諾が必要です。贈与者の死亡によって効力を生じる点で、
遺贈と類似していますので、民法は遺贈に関する規定に従うと定めています(民554条)。
しかし、方式に関しては、遺言の方式に関する規定は適用されません。
包括受遺者と相続人のちがい
包括受遺者が「相続人と同一の権利義務を有する」といっても、相続人となるわけではあり
ませんから、相続人と次の点で異なります。
受遺者が先に死亡していても、代襲して遺贈を受けることはできない。
受遺者には遺留分がない。
相続人の1人が相続放棄しても、受遺者の相続分は変わらない。
受遺者の持分は登記しないと第三者に対抗できない(相続人は登記なくして対抗できる) 。
法人でも受遺者になれる。
保険金受取人としての「相続人」には、包括受遺者は含まれない。
「遺贈する」と「相続させる」のちがい
遺贈は相手が相続人である必要はないが、相続の場合は相手は相続人にかぎられる。
特定遺贈の場合、受遺者はいつでも放棄できるが、「相続させる」の場合は相続そのもの(相
続全体)を放棄しなければならない。
登記手続きについて、「遺贈する」の場合は受遺者と相続人全員又は遺言執行者との共同申
請をする必要があるが、「相続させる」の場合は単独で申請できる。
登記のときの登録免許税が違う。遺贈の場合は評価額の1000分の20、相続であれば、
1000分の4⇒下表参照
※、現在は、相続人に対する遺贈については、両者の登録免許税は同一のものと改正されて
いますので、「遺贈する」でも相続と同じ1000分の4です。
農地の取得について、遺贈なら相続登記に知事の許可が必要。相続なら不要。
(ただし、包括遺贈の場合は不要)
借地権・借家権の取得について、遺贈の場合は原則として賃貸人の承諾が要るが、相続
の場合は不用。
遺贈と債務
包括遺贈があった場合、その受遺者は相続人と同じ権利義務をもつので、相続債務について
も承継することになる。
一方、特定遺贈の場合は、遺言者の別段の意思表示がない限り、遺言者の債務を承継しない。
包括遺贈と大きく異なる点である。
遺贈による登記手続
特定遺贈であれ包括遺贈であれ、登記申請は、受遺者を登記権利者、遺贈者を登記義務者と
する共同申請による。その場合、遺贈者は死亡しているので、遺言執行者がその代理人となり、
遺言執行者がない場合は相続人全員が登記義務者となって申請することになる。
(注)相続人に対する「遺贈」は、相続の税率が適用されます。
<参考> 登録免許税の税率 − H15年3月31日まで H15年4月1日〜
H18年3月31日までH18年4月1日〜 贈与・遺贈 2.5% 1.0% 2.0% 相 続 0.6% 0.2% 0.4%
特殊な形態の遺贈
補充遺贈
受遺者が、遺言者の死亡する以前に死亡した場合のように、遺贈の効力の不発生を停止
条件とする第2の遺贈を補充遺贈といいます。
<文例>
「ただし、受遺者○○が遺言者より先に死亡しているときは、その相続人である△△に前記
財産を遺贈する。」
裾分け遺贈
遺言者が受遺者に対して、遺贈によって受ける財産上の利益の一部を第三者に分けるよ
う指定した遺贈を裾分け遺贈とといいます。
よく似たものに、負担付遺贈がありますが、これは裾分け遺贈とちがって、その負担が必
ずしも財産上のものであることを要しません。
<文例>
「受遺者○○は、前記財産から生ずる収益の20%を△△に与えること。」
後継ぎ遺贈
受遺者の受けている遺贈の利益を、一定の条件の成就後または期限の到来後は他の者
に移転させるという遺贈を後継ぎ遺贈といいます。しかし、後継ぎ遺贈については、その効力
に疑問がありますので、避けたほうがよいでしょう。
<文例>
「ただし、遺言者の甥△△が大学を卒業したときは、同人が前記財産を取得することとする。」
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