夜、知人に話したら怒られた。「一度、採用を決めて会社の都合で、一方的に取りやめるとは、約束を破ることで非常識だ」「本人や両親は失望するに違いない」。胸が詰まった。
自分にも2人の息子がいる。そのうちの1人が、無職だった時のことを思い出した。当時、自分も不安な気持ちにずっと襲われた。そんな思いを他人にさせてはいけない、と強く思った。
2日後、学校に内定取り消しの取り消しを伝えに行った。「やはりうちの会社に来て欲しいんだが、条件として給料を3カ月間ほど減らしたい」。こう申し出た。すでに学生には学校から伝わっていたが、何とか同意してもらった。学校によると、両親は「こんな会社で大丈夫か」とひどく心配したという。
「不安にさせてしまったことは、本当に申し訳ないと思う」。社長はこう話す。「小さい企業でも、優秀な人材は何とか確保したい気持ちは常にある。今後はいろいろ工面してやっていく」(上野嘉之)