今月、不況にあえぐ名古屋市内のIT関連企業の社長(60)が、内定取り消しをいったんは決断した。悩んだ。知人にも責められた。相手の親の顔も浮かんだ。結局、2日後には内定の取り消しを取り下げた。「長期的にみれば、内定取り消しは企業にとってマイナスでしかない」。今、社長はこう話している。
9月に、市内の専門学校を来春卒業する学生1人に内定通知を出した。2年前までは年に10人ほど採用してきた。不透明な景気の先行きが不安で、最近は数を絞って採用してきた。
パソコンのサポート業務やシステム開発を行う、社員50人ほどの会社だ。年々業績を伸ばしてきた。しかし、来年3月までにパソコンのサポート業務契約が2件解約されることになった。取引先で、外注を減らす方針が出たためだ。昨年度は、ソフト開発などの先行投資で赤字だった。出先に常駐していた社員4人も戻ってくる。が、新しい仕事はない。そんなさなか、社長は、1人の内定者の処遇に悩んでいた。
「こんな状況の中で新入社員を採用することに意味があるのか。仕事はないし、教育などの手間もかかる」
12月上旬、意を決して専門学校に相談に行って「申し訳ないが、新人を採ることはできない」と就職担当の先生に伝えた。「取り消しの話ですか……」。先生の表情も何かを悟っていたようだった、と社長は話す。同じような話が来ているんだと直感的にわかった。会社の置かれている状況などを説明して、学校側には何とか理解してもらった。
しかし、先生といろいろ話をしているうちに、社長の脳裏に学生や両親の顔が浮かんできたという。
「自分も息子を持つ親だから、不安な気持ちは痛いほどわかる」。迷いながら、その日は帰った。