2008.12.23
[NEW]私の生き方と教育について<後編>
ここで突然､私の倅の話になります｡
倅は格技･空手の世界では<小島の御子息>などと特別扱いされて成長しました｡たかが初段ﾚﾍﾞﾙで､少年部時代は別にして何の実績もない倅が松井章圭や盧山初雄､大山泰彦や郷田勇三､山田雅稔､黒澤浩樹…といった斯界の頂点に生きる空手家たちに可愛がられ､会食に同席したり､ﾒｰﾙまで貰う立場にいる事がそもそも異常なのです｡それは勿論､倅の<力>ではなく､親である私の<力>によるものである事は言うまでもありません｡
しかし､倅が自ら空手を学んでいくにあたり､このような恵まれた環境は決してﾌﾟﾗｽだけをもたらす訳ではありません｡超一流の空手家たちに可愛がられているという事実が､時に多大なﾌﾟﾚｯｼｬｰになります｡倅は倅なりに､極真会館に入門した幼稚園児の頃からずっと<小島の息子>という周囲からの視線のなかで苦しんできた事は想像に難くありません｡
松井章圭はかつて言いました｡
｢僕が大山総裁に可愛がられ､ｴﾘｰﾄのﾚｰﾙを敷いてもらって随分､得したと言う人はたくさんいます｡仮にその通りだとして､ならば僕の立場になってどれだけ大きなﾌﾟﾚｯｼｬｰを背負わなくてはならなかったかなんて考えてくれる人は何人いるでしょう? 僕はむしろ総裁に無視され､期待もされず､自由な立場で空手をやりたかったと今も思います｡黒澤君や増田君が羨ましかった…｡そんな気持ちが分かりますか?｣
ﾚﾍﾞﾙも次元も違うものの､私の倅も松井のｹｰｽに極めて似ている事は間違いありません｡
極真空手ではない､例えば柔道の世界にいる方がどれだけ気が楽か! 中学･高校と､倅はいったん空手を離れ(後々の空手生活の為に敢えて空手以外の格技を学ばせようと思いました)､講道館で柔道を､ﾖﾈｸﾗｼﾞﾑでﾎﾞｸｼﾝｸﾞを学びました(ﾎﾞｸｼﾝｸﾞは現在も続けています)｡見るからに倅は生き生きとしながら柔道とﾎﾞｸｼﾝｸﾞの練習に夢中になっていました｡私も柔道の黒帯であり､多少なりともﾎﾞｸｼﾝｸﾞの経験もありました｡しかし私は一切､口を出さなかったし､一緒にﾄﾚｰﾆﾝｸﾞをした事も皆無でした｡
ﾎﾞｸｼﾝｸﾞのﾊﾟﾝﾁﾝｸﾞﾎﾞｰﾙやﾛｰﾌﾟﾜｰｸを覚える度に､倅は嬉しそうに私に話して聞かせました｡柔道も気が付くと講道館指定選手に選抜されるﾚﾍﾞﾙにもなりました｡試合に勝ったというと､喜び勇んで私に報告の電話をしてきたものです｡
こんな倅の積極的な姿勢は空手では1度も見た事がありませんでした｡城西支部の少年大会で連覇した時も､全日本少年大会で準優勝した時も､倅の表情には喜びよりもむしろ<安堵感>の方が強く感じられました｡
私の息子であるという事実は､極真空手を学ぶにおいてそれほどまで大きな精神的圧力を倅に強いてきたのです｡また､その圧力故に倅はなかなか極真空手への強い情熱を持てず､一般部黒帯という誇りも抱く事なく､いつしか稽古も義務感で行うようになっていきました｡
ある日､私は激昂しながら倅を叱咤しました｡顔面がｽｲｶを割ったように血まみれになるほど殴りました｡そして､何故私が倅に極真空手を学ばせているのか…､これまでも何度か口にしてきた事を改めて強く言って聞かせました｡
――道場に足を一歩踏み入れれば､そこは年齢も学歴も職業も関係のない徹底した縦型社会であり､同時に<強さ>こそが最大の意味をもつ実力社会である｡仮に相手より歳上であろうが､東大･慶應を出ていようが､医師や教師だろうが道場では何の価値もない｡
私とは正反対に､倅は少なくとも物理的には極めて恵まれた環境で育ってきた｡｢悔しい｣という感情すらせいぜい1､2度しか抱いた事がないだろう｡以前､私は矢沢永吉さんの｢成りあがり｣を倅に読ませた｡
ちなみに､私が｢成りあがり｣を初めて読んだのは大学1年の夏だった｡他の友人たちのようなｼｮｯｸも感動もあなく､ただ｢ああ､悔しいｶﾞｷの時代を過ごし､怒りをｴﾈﾙｷﾞｰにして生きてきたのは俺だけじゃないんだ｣という､何故かﾎｯとする共感だけが心に残った｡だからこそ､矢沢さんは一般のﾌｧﾝが★のように崇める異次元の存在ではなく､あくまで自分が目指すべき<目標>なのだ｡
しかし､｢成りあがり｣を読んだ倅はやや当惑の色を浮かべながら呟くように言った｡
｢永ちゃんが凄いのは分かったけど､ただ僕は永ちゃんや父さんのような幼い頃の悔しい思いとか辛い思いとか､怒りみたいなものを経験した事ないから､自分には永ちゃんみたいな生き方が出来るかどうか分からないんだ…｣
だから極真空手をやらせているんだ!
だから強くなる事に貪欲にならなければならないのだ!
親父の<力>ではない､自分の<力>を持たなければ､厳しい社会を生き抜いていけないんだ!
倅は格技･空手の世界では<小島の御子息>などと特別扱いされて成長しました｡たかが初段ﾚﾍﾞﾙで､少年部時代は別にして何の実績もない倅が松井章圭や盧山初雄､大山泰彦や郷田勇三､山田雅稔､黒澤浩樹…といった斯界の頂点に生きる空手家たちに可愛がられ､会食に同席したり､ﾒｰﾙまで貰う立場にいる事がそもそも異常なのです｡それは勿論､倅の<力>ではなく､親である私の<力>によるものである事は言うまでもありません｡
しかし､倅が自ら空手を学んでいくにあたり､このような恵まれた環境は決してﾌﾟﾗｽだけをもたらす訳ではありません｡超一流の空手家たちに可愛がられているという事実が､時に多大なﾌﾟﾚｯｼｬｰになります｡倅は倅なりに､極真会館に入門した幼稚園児の頃からずっと<小島の息子>という周囲からの視線のなかで苦しんできた事は想像に難くありません｡
松井章圭はかつて言いました｡
｢僕が大山総裁に可愛がられ､ｴﾘｰﾄのﾚｰﾙを敷いてもらって随分､得したと言う人はたくさんいます｡仮にその通りだとして､ならば僕の立場になってどれだけ大きなﾌﾟﾚｯｼｬｰを背負わなくてはならなかったかなんて考えてくれる人は何人いるでしょう? 僕はむしろ総裁に無視され､期待もされず､自由な立場で空手をやりたかったと今も思います｡黒澤君や増田君が羨ましかった…｡そんな気持ちが分かりますか?｣
ﾚﾍﾞﾙも次元も違うものの､私の倅も松井のｹｰｽに極めて似ている事は間違いありません｡
極真空手ではない､例えば柔道の世界にいる方がどれだけ気が楽か! 中学･高校と､倅はいったん空手を離れ(後々の空手生活の為に敢えて空手以外の格技を学ばせようと思いました)､講道館で柔道を､ﾖﾈｸﾗｼﾞﾑでﾎﾞｸｼﾝｸﾞを学びました(ﾎﾞｸｼﾝｸﾞは現在も続けています)｡見るからに倅は生き生きとしながら柔道とﾎﾞｸｼﾝｸﾞの練習に夢中になっていました｡私も柔道の黒帯であり､多少なりともﾎﾞｸｼﾝｸﾞの経験もありました｡しかし私は一切､口を出さなかったし､一緒にﾄﾚｰﾆﾝｸﾞをした事も皆無でした｡
ﾎﾞｸｼﾝｸﾞのﾊﾟﾝﾁﾝｸﾞﾎﾞｰﾙやﾛｰﾌﾟﾜｰｸを覚える度に､倅は嬉しそうに私に話して聞かせました｡柔道も気が付くと講道館指定選手に選抜されるﾚﾍﾞﾙにもなりました｡試合に勝ったというと､喜び勇んで私に報告の電話をしてきたものです｡
こんな倅の積極的な姿勢は空手では1度も見た事がありませんでした｡城西支部の少年大会で連覇した時も､全日本少年大会で準優勝した時も､倅の表情には喜びよりもむしろ<安堵感>の方が強く感じられました｡
私の息子であるという事実は､極真空手を学ぶにおいてそれほどまで大きな精神的圧力を倅に強いてきたのです｡また､その圧力故に倅はなかなか極真空手への強い情熱を持てず､一般部黒帯という誇りも抱く事なく､いつしか稽古も義務感で行うようになっていきました｡
ある日､私は激昂しながら倅を叱咤しました｡顔面がｽｲｶを割ったように血まみれになるほど殴りました｡そして､何故私が倅に極真空手を学ばせているのか…､これまでも何度か口にしてきた事を改めて強く言って聞かせました｡
――道場に足を一歩踏み入れれば､そこは年齢も学歴も職業も関係のない徹底した縦型社会であり､同時に<強さ>こそが最大の意味をもつ実力社会である｡仮に相手より歳上であろうが､東大･慶應を出ていようが､医師や教師だろうが道場では何の価値もない｡
私とは正反対に､倅は少なくとも物理的には極めて恵まれた環境で育ってきた｡｢悔しい｣という感情すらせいぜい1､2度しか抱いた事がないだろう｡以前､私は矢沢永吉さんの｢成りあがり｣を倅に読ませた｡
ちなみに､私が｢成りあがり｣を初めて読んだのは大学1年の夏だった｡他の友人たちのようなｼｮｯｸも感動もあなく､ただ｢ああ､悔しいｶﾞｷの時代を過ごし､怒りをｴﾈﾙｷﾞｰにして生きてきたのは俺だけじゃないんだ｣という､何故かﾎｯとする共感だけが心に残った｡だからこそ､矢沢さんは一般のﾌｧﾝが★のように崇める異次元の存在ではなく､あくまで自分が目指すべき<目標>なのだ｡
しかし､｢成りあがり｣を読んだ倅はやや当惑の色を浮かべながら呟くように言った｡
｢永ちゃんが凄いのは分かったけど､ただ僕は永ちゃんや父さんのような幼い頃の悔しい思いとか辛い思いとか､怒りみたいなものを経験した事ないから､自分には永ちゃんみたいな生き方が出来るかどうか分からないんだ…｣
だから極真空手をやらせているんだ!
だから強くなる事に貪欲にならなければならないのだ!
親父の<力>ではない､自分の<力>を持たなければ､厳しい社会を生き抜いていけないんだ!
私は殴りながら､ｺﾝｺﾝと倅に言い続けました｡
ある意味､極真空手の稽古ほど苦しいものはありません｡例えﾙｰﾙがあろうが､素手素足で人間同士が渾身の力で叩き合い､倒し合う行為は､現代社会において極端に言えば戦場以外ではあり得ないものです｡KOされて負けた時の屈辱感は計り知れないものがあります｡
また極真空手において､組手･試合に勝とうとするならば､単に腕力だけではどうにもなりません｡相手の心理を読み､時に機先を制し､また自分から誘い込むなど<戦いの構成>も必要になります｡
戦略と戦術を明確にしつつ､それを現実的に実践してこそ､勝利の道は拓けるのです｡また､それ以前に組手をするに足るﾊﾟﾜｰ､ｽﾋﾟｰﾄﾞ､ｽﾀﾐﾅなどの体力も最大限伸ばすﾄﾚｰﾆﾝｸﾞも欠かせません｡極めて地味で辛いだけのﾄﾚｰﾆﾝｸﾞが下地になって､初めて極真空手のｽｷﾙが生きるのです｡
極真会館館長である松井章圭は言います｡
｢空手で強くなる､また試合で勝つ為には､合理的な方法論が求められます｡それらは､そのまま人生に生きるものです｡しかし､ただ空手を競技としてのみ考えている人間には､自分の努力が空手だけで完結してしまう｡逆に空手の経験がﾊﾝﾃﾞになるんです｡空手を人生に生かすか殺すか､それは本人の意識しかありません｣
私は極真空手を通して倅に<人生勉強>をさせたかったのです｡強い､弱いは関係なく､一生懸命に強くなろうと稽古するなかで､また道場という特殊な環境のなかで普通ならば学べない事を学んでほしいと思ったのです｡物理的に恵まれた環境に育ち､私が味わってきたような地獄の修羅場を知らないからこそ､極真空手を学ぶ事で本当の<力>への渇望を持って欲しいと願ったのです｡
倅を強く叱咤しながら､私は倅の気持ちを本気にさせる為には<目標>を持たせなければならないと確信しました｡私は本来､大会志向ではありません｡しかし大会が倅の<目標>になり得るならば､私の個人的嗜好に固執してなどいられません｡
2年間…｡2年間だけは､大学の授業も何もかも棄てて空手だけの生活を送らせる事にしました｡
こうして数ｶ月前から､大会を<目標>にした倅の猛特訓の日々が始まったのです｡現在､極真会館城西支部に身を置く倅は連日､空手漬けの毎日です｡道場だけでなく､極真会館の全日本選手権や世界選手権で活躍した実績を持つ某氏の個人指導も受けています｡信じ難いほどの猛特訓です｡
少年部時代にやっていた<親子稽古>も復活しました｡日によってｳｪｲﾄﾄﾚｰﾆﾝｸﾞと空手の稽古に分け､週3回行っています｡当然のように､空手では既に私は倅の敵ではありません｡しかし､それでも<親子稽古>では私が師です｡
私は一切容赦をしません｡少しでもﾀﾞﾚていたり気を抜いていると木刀でぶっ叩く事もあります｡しかし､倅は絶対に逆らいません｡｢やれ!｣と言われたら｢押忍｣の一言｡どんなに辛くても諦めません｡私の前では一切の口答えも許さず､文句ひとつ言わせない主義を通しています｡
繰り返しますが､倅には常に<小島の息子>というﾚｯﾃﾙがついて回ります｡大会に出場するにしても､普通ならば試合に負けながら勝ち方を学び､1つひとつ階段を登っていくものでしょう｡しかし倅の場合はそれが許されません｡大会に出たならば最低限､入賞しなければならない…それが倅が負ってきた宿命なのです｡
本音を言えば､大会で優勝する事が本質的な目標ではありません｡しかし､その為に必死になりﾄｺﾄﾝ自分自身を追い込んでいく事が何よりも大切なのです｡
｢息子には脱帽するしかない｡俺はｺｲﾂを誇る事ができる｣
これが倅に対する私の正直な気持ちです｡手前味噌ではありますが､何故､倅はここまで素直に育ったのか? 私は倅が小学生の頃からどんなことも隠さず本音を晒してきました｡醜い小島､臆病な父親､弱い大人…｡
女房との離婚についても小学生半ばの倅に切々と自分の気持ちを語りかけてきました｡何もかも隠さず､素顔のまま倅に対してきたつもりです｡私のﾊﾟｰﾄﾅｰである塚本ﾖｼｺへの想いも､私の複雑な感情も､みんな倅が一番よく知っています｡
常にありのままの親父の姿を見せ､倅が知らない自分の幼･少年時代の話を何度も何度も言い聞かせ､その上で｢強くあれ｣と教育してきました｡下世話な事ですが､街でのｹﾝｶの作法でさえ､私は自ら見本を演じて教えてきました｡仕事に苦悩し､のたうち回る姿も見せてきました｡ｾｯｸｽの話もﾀﾌﾞｰにしません｡私自身の過去の恋愛経験もみんな話してきました｡
倅が欲しいというﾓﾉは何でも買ってやりました｡すると､いつしか｢〜が欲しい｣と口にしなくなりました｡人間の欲望は不思議なものです｡手に入らないから欲しいと思うのです｡いつでも手にできると思うと渇望感が薄らいでくるのです｡
子供の責任は全て親の教育にあると私は思っています｡学校の教師になど､特に公立の小中学校のｾﾝｺｰなど糞の役にも立ちません｡
私はこうして倅を育ててきました｡必死の愛情を持ちながらも､時にはﾒﾀﾒﾀにぶん殴りながら育ててきました｡
夢現舎の塚本への接し方も極めて倅に対したやり方に似ていました｡入社(最初はｱﾙﾊﾞｲﾄでしたが)してから暫くは､殆ど無視して相手にせず､ただ黙って見ていました｡最低限の能力や気持ち､つまり素質を見極めなければ教育のしようがないからです｡
そして塚本が､とてつもない潜在能力を秘めている事を確信してからは､一転して辛く辛く接してきました｡男女の関係なく､ｽﾀｯﾌの誰よりも厳しく､あたかも苛めるようにｷﾂく当たってきたはずです｡
倅に対するのと同じく､とてつもなく厳しく接しながら､いつも｢もがいてもがいて這い上がってくれ｣と内心祈り続けてきました｡それが本当の教育であり｢愛情｣だと私は信じています｡
何事も強くあらねばならないのです｡悔しさや辛さ､圧倒的な力に対する反発･反抗心､理不尽なものへの強烈な憎しみ･怒り…｡
私は自らの意思と関係なく､地獄のような環境のなかから､これらの感情を唯一の武器として生き抜いてきました｡倅と塚本には､時に私が悪役を演じながら､そのような感情を意識的に持たせる事が教育の大半でした｡
そして今､倅は日を追うごとに強くなっています｡いつか極真会館の表舞台に上がる日がくるでしょう｡
塚本は今､編集者として私を遥かに追い越し､物書きとしても私の大切なﾊﾟｰﾄﾅｰです｡彼女こそが実質的な(株)夢現舎の最高決定者であり､私にとっても最大の宝物です｡
｢力なき正義は無能なり｣
しかし､その<力>を得る為には､ただひたすら戦うしか術はないのです｡
(了)
ある意味､極真空手の稽古ほど苦しいものはありません｡例えﾙｰﾙがあろうが､素手素足で人間同士が渾身の力で叩き合い､倒し合う行為は､現代社会において極端に言えば戦場以外ではあり得ないものです｡KOされて負けた時の屈辱感は計り知れないものがあります｡
また極真空手において､組手･試合に勝とうとするならば､単に腕力だけではどうにもなりません｡相手の心理を読み､時に機先を制し､また自分から誘い込むなど<戦いの構成>も必要になります｡
戦略と戦術を明確にしつつ､それを現実的に実践してこそ､勝利の道は拓けるのです｡また､それ以前に組手をするに足るﾊﾟﾜｰ､ｽﾋﾟｰﾄﾞ､ｽﾀﾐﾅなどの体力も最大限伸ばすﾄﾚｰﾆﾝｸﾞも欠かせません｡極めて地味で辛いだけのﾄﾚｰﾆﾝｸﾞが下地になって､初めて極真空手のｽｷﾙが生きるのです｡
極真会館館長である松井章圭は言います｡
｢空手で強くなる､また試合で勝つ為には､合理的な方法論が求められます｡それらは､そのまま人生に生きるものです｡しかし､ただ空手を競技としてのみ考えている人間には､自分の努力が空手だけで完結してしまう｡逆に空手の経験がﾊﾝﾃﾞになるんです｡空手を人生に生かすか殺すか､それは本人の意識しかありません｣
私は極真空手を通して倅に<人生勉強>をさせたかったのです｡強い､弱いは関係なく､一生懸命に強くなろうと稽古するなかで､また道場という特殊な環境のなかで普通ならば学べない事を学んでほしいと思ったのです｡物理的に恵まれた環境に育ち､私が味わってきたような地獄の修羅場を知らないからこそ､極真空手を学ぶ事で本当の<力>への渇望を持って欲しいと願ったのです｡
倅を強く叱咤しながら､私は倅の気持ちを本気にさせる為には<目標>を持たせなければならないと確信しました｡私は本来､大会志向ではありません｡しかし大会が倅の<目標>になり得るならば､私の個人的嗜好に固執してなどいられません｡
2年間…｡2年間だけは､大学の授業も何もかも棄てて空手だけの生活を送らせる事にしました｡
こうして数ｶ月前から､大会を<目標>にした倅の猛特訓の日々が始まったのです｡現在､極真会館城西支部に身を置く倅は連日､空手漬けの毎日です｡道場だけでなく､極真会館の全日本選手権や世界選手権で活躍した実績を持つ某氏の個人指導も受けています｡信じ難いほどの猛特訓です｡
少年部時代にやっていた<親子稽古>も復活しました｡日によってｳｪｲﾄﾄﾚｰﾆﾝｸﾞと空手の稽古に分け､週3回行っています｡当然のように､空手では既に私は倅の敵ではありません｡しかし､それでも<親子稽古>では私が師です｡
私は一切容赦をしません｡少しでもﾀﾞﾚていたり気を抜いていると木刀でぶっ叩く事もあります｡しかし､倅は絶対に逆らいません｡｢やれ!｣と言われたら｢押忍｣の一言｡どんなに辛くても諦めません｡私の前では一切の口答えも許さず､文句ひとつ言わせない主義を通しています｡
繰り返しますが､倅には常に<小島の息子>というﾚｯﾃﾙがついて回ります｡大会に出場するにしても､普通ならば試合に負けながら勝ち方を学び､1つひとつ階段を登っていくものでしょう｡しかし倅の場合はそれが許されません｡大会に出たならば最低限､入賞しなければならない…それが倅が負ってきた宿命なのです｡
本音を言えば､大会で優勝する事が本質的な目標ではありません｡しかし､その為に必死になりﾄｺﾄﾝ自分自身を追い込んでいく事が何よりも大切なのです｡
｢息子には脱帽するしかない｡俺はｺｲﾂを誇る事ができる｣
これが倅に対する私の正直な気持ちです｡手前味噌ではありますが､何故､倅はここまで素直に育ったのか? 私は倅が小学生の頃からどんなことも隠さず本音を晒してきました｡醜い小島､臆病な父親､弱い大人…｡
女房との離婚についても小学生半ばの倅に切々と自分の気持ちを語りかけてきました｡何もかも隠さず､素顔のまま倅に対してきたつもりです｡私のﾊﾟｰﾄﾅｰである塚本ﾖｼｺへの想いも､私の複雑な感情も､みんな倅が一番よく知っています｡
常にありのままの親父の姿を見せ､倅が知らない自分の幼･少年時代の話を何度も何度も言い聞かせ､その上で｢強くあれ｣と教育してきました｡下世話な事ですが､街でのｹﾝｶの作法でさえ､私は自ら見本を演じて教えてきました｡仕事に苦悩し､のたうち回る姿も見せてきました｡ｾｯｸｽの話もﾀﾌﾞｰにしません｡私自身の過去の恋愛経験もみんな話してきました｡
倅が欲しいというﾓﾉは何でも買ってやりました｡すると､いつしか｢〜が欲しい｣と口にしなくなりました｡人間の欲望は不思議なものです｡手に入らないから欲しいと思うのです｡いつでも手にできると思うと渇望感が薄らいでくるのです｡
子供の責任は全て親の教育にあると私は思っています｡学校の教師になど､特に公立の小中学校のｾﾝｺｰなど糞の役にも立ちません｡
私はこうして倅を育ててきました｡必死の愛情を持ちながらも､時にはﾒﾀﾒﾀにぶん殴りながら育ててきました｡
夢現舎の塚本への接し方も極めて倅に対したやり方に似ていました｡入社(最初はｱﾙﾊﾞｲﾄでしたが)してから暫くは､殆ど無視して相手にせず､ただ黙って見ていました｡最低限の能力や気持ち､つまり素質を見極めなければ教育のしようがないからです｡
そして塚本が､とてつもない潜在能力を秘めている事を確信してからは､一転して辛く辛く接してきました｡男女の関係なく､ｽﾀｯﾌの誰よりも厳しく､あたかも苛めるようにｷﾂく当たってきたはずです｡
倅に対するのと同じく､とてつもなく厳しく接しながら､いつも｢もがいてもがいて這い上がってくれ｣と内心祈り続けてきました｡それが本当の教育であり｢愛情｣だと私は信じています｡
何事も強くあらねばならないのです｡悔しさや辛さ､圧倒的な力に対する反発･反抗心､理不尽なものへの強烈な憎しみ･怒り…｡
私は自らの意思と関係なく､地獄のような環境のなかから､これらの感情を唯一の武器として生き抜いてきました｡倅と塚本には､時に私が悪役を演じながら､そのような感情を意識的に持たせる事が教育の大半でした｡
そして今､倅は日を追うごとに強くなっています｡いつか極真会館の表舞台に上がる日がくるでしょう｡
塚本は今､編集者として私を遥かに追い越し､物書きとしても私の大切なﾊﾟｰﾄﾅｰです｡彼女こそが実質的な(株)夢現舎の最高決定者であり､私にとっても最大の宝物です｡
｢力なき正義は無能なり｣
しかし､その<力>を得る為には､ただひたすら戦うしか術はないのです｡
(了)
samurai_mugen at 00:06
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