岩手県立病院の無床化計画 旧沢内村長・太田氏に聞く岩手県医療局が打ち出した六つの県立病院・地域医療センターの無床化計画。医療局は年明けに説明会を始めるが、地元からは早くも反発の声が出ている。「生命尊重」の理念を掲げた旧沢内村(現西和賀町)の故深沢晟雄村長の意思を継ぎ、1973年から村長を20年務めた太田祖電さん(86)に意見を聞いた。(聞き手は北上支局・高橋鉄男)無床化計画を聞いて「命に格差があってはならない。いつでも、どこでも、誰でも最高の医療を受ける権利がある」という深沢の言葉、村の歴史をあらためてかみしめた。県の方針は過疎地や弱者の命を軽視したものだと思えてならない。 生命尊重行政の支柱的役割を担う地元の国保沢内病院も、将来の病床削減対象になっている。病気になった子どもや高齢者が病院に駆けつけ、すぐに入院できる。親族も近くで世話できる安心感は何物にも代え難い。 そもそも住民の生命を守ることは、ほかの予算を削ってでも優先すべき行政の基本だ。県は一般会計から毎年約180億円の持ち出しを強いられると訴えるが、その姿勢は「命あってのものだね」が「ものだねあっての命」に逆転している。地元住民との合意形成を後回しに無床化計画を進める姿勢にも表れている。 1983年の老人保健法施行を皮切りに、国は医療費抑制にかじを切った。今回の病院改革案も採算性を重視する総務省の指針に基づく。国の統制に縛られず、住民が何を望んでいるのかを最優先にするのが地方自治ではないか。 県には計画を進める前に保健、福祉、医療行政が手を携えて、地域で医療を支える体制づくりを進めてほしい。 かつて「豪雪、貧困、多病多死」に苦しんだ沢内村も、深沢村長の下、保健、医療を両輪とした全国初の総合医療体制を敷き、全国に先駆けて乳児や老人医療費の無料化を進めた。その結果、予防や健康の大切さを説く「社会教育」が行き届き、1人当たり医療費は県内最低額に抑えられた。 今の時代は高齢者が増えるにつれ、保健行政は医療と切り離され、福祉とセットになった。するとどうなったか。医師の治療負担が増して超過勤務となり、医師は地域の医療現場から去っていくような悪循環に陥った。 病院危機が広がる今、沢内村の取り組みは過去のものではない。深沢が残した「生命尊重こそ政治の基本」という哲学を持って、住民も協力できる方向を模索してほしい。 <おおた・そでん>岩手県西和賀町(旧沢内村)出身。大谷大卒。高校教諭、沢内村教育長などを経て、1973年から村長を5期20年務めた。83年度には「保健の村づくり」で河北文化賞を受賞。同町の碧祥寺住職。
2008年12月22日月曜日
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